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2015年1月18日日曜日

ハロウィン・ラプソディ・人物紹介と感想

セッション日  2014年9月23日
ウィッチクエスト
マスター:とり


アリス(じゃすみん)
ノブナガ(Regulus)
「剣」のカードを暗示に持ち、戦いを恐れぬ勇敢さを持つ魔女アリスと、狭量ながらリーダー的な素質を持つ猫ノブナガ。

背は漆黒、腹は真紅という猫ノブナガのプレイヤーRegulusさん曰く、「黒赤は危険球かなぁと思いながらのネタ振り」だったそうですが、それをきっかけにゴスロリ少女(しかも厨二病)になった模様なのはなかなかに見事。

アリスのいうところのカボチャ「混沌より現れし陽だまりの以下略」だけは何度聞いても覚えられなかったので、このリプレイ書くためだけに辞書登録したのは内緒(笑)

普段は無口なアリスを、要所要所で的確に猫魔法を使いながらサポートするノブナガ、という、かなりとんがっている見た目に反した安定感のあるコンビです。


ルチュ(箱)
ティム(水葉)
「宇宙」のカードを暗示に持ち、冒険と混沌を楽しむ性格の魔女ルチュ。
心優しいがお調子者の猫ティムの毛並みはそれに合わせて、一見真っ黒ながら光に当たると青や緑に見えるという、さながら曹灰長石ラブラドライトのイメージにしてみました。

ルチュのプレイヤー箱さんは、私が初めてウィッチクエストをプレイした時のマスターさんで、普段も進んでウィッチクエストのマスターを引き受けてくださいます。

しかし、今回は久々のプレイヤーをフリーダムに満喫されたご様子で、ルチュは決断も早く、こうと決めたら突っ走るというタイプ。猫の方が頑張ってブレーキかけようとする役回り(笑)
これはこれでバランス取れた良いコンビだと思っております。


オルセ(我楽多)
リリア(NPC)
「杖」のカードを暗示に持ち、調和を重んじる魔女オルセ。

このパーティ随一の常識人であり、しっかりした性格でもあるため、いつも周りに気を配り、でも自分の意見はハッキリと言えるタイプ。魔女達と街人との橋渡しを上手く務めてくれていたと思います。

しかしマスター側でNPCとして用意した猫が、若さあふれるお高く止まった性格、そしてピンクでリボン柄という毛皮だけしっかり決めたため、スポーツ選手ながらお洋服フリフリ系というギャップが発生。
軽く嫌がらせかもしれない。

しかしさすがベテランプレイヤーらしく気にせず頑張ってくれました。
全体として見れば、自立したオルセに、干渉しないリリア、というイメージですね。


さて、ずいぶん久々のレポートアップとなりました。

これ以前に書きかけで放置しているレポートは2012年夏の物だという事に気付いてしまいまして、ウィッチクエストなら軽いしセッション時間も短かったし、比較的早く書き上がるだろうと思って書き始めたのですが、相変わらず無駄に長くなる私の文章……

レポート書き上がったのが今頃なのですっかり季節外れとなってしまいましたが、実際のセッションは昨年9月末だったので、マスターとしては時期にピッタリのお話を用意してくれていた訳です。
本来ハロウィンは万聖節の前夜祭ですが、この世界キリスト教ではないので……って、まあ難しい事はいいや、楽しれけば。

オンラインセッションだったので、魔女と猫がペアで進めるウィッチクエストは難しいのかなと思っていましたが、音声通話とどどんとふのおかげで全く滞りなくスムーズに進みました。技術の進歩ってすごいですね。
そして短い時間のセッションながら、プレイヤーも皆慣れたもので、それぞれカードの暗示と逆暗示を活かした個性的なキャラ立てになっています。

ストーリーはシンプルに迷いなく進められるものでしたが、クライマックスのパンプキングの説得で、アリスのプレイヤーじゃすみんが厨二的な言い回しを考え出すのに四苦八苦していたのが印象的でした(笑)

そして今考えると、カボチャ達のかけ声は「ハイル・キュルビス!」とかになるのが正解なのではなかろうかと思いつつ、セッションの場で盛り上がった「ジーク・パンプ!」をそのまま採用。何と戦うつもりだお前達。

今回もそんな楽しいセッションでした。
マスターとり、プレイヤー皆様、リプレイをお読みくださった皆様に感謝です。






2015年1月16日金曜日

ハロウィン・ラプソディ・6

そんな訳で、首尾良くカボチャを手に入れた一行は街に戻る事にした。

「アリス、それ持って帰るんでしょ?あたし先に行ってカボチャ来るよって伝えて来てあげるわよ。お菓子作る準備とかもあるでしょうしね!」
ルチュがそう言うが早いか、アリスの返事も待たず箒で飛び立つ。

「だーかーらぁー、スピード上げる時は事前にぃー……!」
同乗させられているティムの声もあっと言う間に遠ざかっていった。
菓子作りの準備があるなら、アリスを先に帰らせてルチュがカボチャを運んでも良さそうなものだったが、そんな発想はそもそもなかったらしく、思い付いたら即行動のルチュらしいといえばルチュらしい。


「手伝うわよ、アリス」
オルセが苦笑しながら声をかけた。
「ふむ…そこまで一刻を争うものでもないのだが」
アリスは考え込みながら口を開く。

「それよりは、ちと寄りたいところがある。そちらの方が時間がかかりそうだしな……」
「あら、どこ行くの?」
「……個人的な買い物だ」
そう言われてしまうと、ついて行くのもはばかられるので、オルセも他に出来る事がないか考えてみた。

「あ、じゃあ私も買い物に行くわ。あの子が着られそうな着ぐるみ、探しておかないとね」
「そうか。よろしく頼む」
こうして、帰りはそれぞれバラバラに街まで戻る事になった。


街まで戻って来たオルセは、その足でおもちゃ屋に向かった。
ちょうど子供向けのハロウィン衣装なども並んでおり、すぐにイメージに合ったウサギの着ぐるみを見つける事が出来た。大きさといい色合いといい申し分なさそうだし、作りや素材も割と良いもののように見える。

「おじさん、これいくら?」
聞いてみるとそれは少し値の張るものであったが、
「いいわ、もらって行くわね」
オルセは迷う事なく即金でそれを買う事に決め、プレゼント用に包んでもらった。


荷物を抱えて帰ろうとしたオルセだったが、ふと思い付いて回れ右し、また農家に戻る。

「あー、お前達はこっちの箱に入れ。そっちのお前達はあの木箱な」
オルセが戻った時には、主人とカボチャ達は早速忙しそうに出荷の準備の真っ最中だった。

主人に声をかけ、空き家で行うハロウィンのパーティーにパンプキングを出席させてもいいかと頼んでみる。勿論構わないという返事をもらったオルセは、王本人にもその話をしておく事にした。

「おお、話の分かる娘の友人ではないか!何、パーティーとな?」
パンプキング自身も上機嫌でパーティーに来る事を承諾してくれたので、安心したオルセは今度こそ帰る事にしたのであった。


一方、自分の買い物を終えたアリスが店に戻ると、先にルチュから報告を受けたファリーヌが準備万端整えて待っていた。

「ご苦労様、アリスちゃん。カボチャ手に入れてくれたのね。さあ、これから忙しくなるわよー」
また無言のままうなずくアリスも早速調理服とエプロンを身に着け、菓子作りの準備に取りかかるのだった。


それから1週間、ハロウィン当日まで、皆はそれぞれ空いた時間を使ってパーティーの準備を進めていた。
例えばオルセとルチュはパーティーのためにチラシを作って、ナバールやファリーヌの店で配ってもらう事にした。

「えっと、誰でも歓迎、参加自由!でいいのよね?」
「それは合ってるけど……ルチュ、作るのはパーティーのお知らせで、あなたの単独ライブのお知らせじゃないわよ?」

アリスは忙しい合間を縫って、パンプキングがくり抜かれてランタンになる瞬間に立ち会ったりもしていたが、基本的には菓子作りにかかりきりだったので、空き家をパーティーのために掃除したり飾り付けたりするのも、二人と猫達で協力して頑張った。


そしていよいよハロウィン当日の夜。

皆で忙しく最後の会場の仕上げや料理の支度をしていると、農家の主人に連れられてパンプキングとお供のカボチャ達がやって来た。
きれいに中身をくり抜かれ、顔を付けられた事により、表情が豊かになって嬉しそうなのが前よりもよく分かる。

アリスが進み出て、パンプキングの頭に冠を乗せた。自分の馴染みの衣装屋でパンプキングのためにこだわり抜いて特注した冠だ。先日カボチャ農家から帰る途中、買い物に寄って頼んでおいた品である。
さすがは話の分かる娘だとパンプキングもいたくご満悦のようだった。


お供のカボチャ達を会場の飾りに加えているところへ、今度はファリーヌが大荷物を持って到着した。

カボチャをたっぷり使った焼き立てのパイやタルトは勿論、クッキーその他の焼き菓子や、お土産に配る小分けにされたキャンディーの袋までたくさん用意されており、正にお菓子の山であった。

歓声を上げる皆に、店も忙しくて大変だったのだと珍しくアリスが愚痴るが、思う存分腕を振るえたとファリーヌは満足そうである。

ピンクのウサギのぬいぐるみを抱え、オルセの用意した着ぐるみを朝からずっと着ているルセリアもとても嬉しそうだ。


開始の時刻が近付くにつれて徐々に街の人々も集まってき始めた。

隣街から来るルセリアの両親を街の門まで出迎えに行っていたルチュも戻って来た。
今日もギターを抱え歌う気満々のルチュは、ここまで来る道すがら、ルセリアの好きだった曲を両親にたずねてみたりしたらしい。

「あら、そのぬいぐるみ……なくしてしまったと思っていたけれど、ここに忘れて行ってしまっていたのね」
ウサギの着ぐるみが抱えているぬいぐるみに目を留めた両親は顔を見合わせ、ついで着ぐるみを見つめた。
ややためらってから、黙ったまま着ぐるみをぎゅっと抱きしめる。

魔女達も黙ったまま微笑んでその様子を見守っていた。


やがてパーティーが始まる。
歌に音楽、お喋りに踊り、料理にお菓子。
賑やかな一晩が楽しく過ぎていった。


「ありがとうございました。あなた方のおかげで、もう一度あの子に会えた気がするんです」
ルセリアの両親は穏やかな表情で魔女達に礼を述べ、動かないただの着ぐるみに戻った着ぐるみとぬいぐるみを大事そうに抱きかかえて帰途に着いた。


「我らは重大な役目を全うする事が出来た、悔いはない。礼を言うぞ、話の分かる娘と友人達よ」
パンプキングも笑顔を浮かべたまま、お供のカボチャ達を引き連れて農家に帰って行く。


見送る魔女達には、ほんの少し寂しい気持ちが生まれていた。
しかし、感傷に浸っていたのも束の間。

「死者の祭典が終わったからには、次は聖者の生誕祭だ。また忙しくなる」
「うむ、また他の猫達にも喧伝する事としよう」
アリスとノブナガがすっと立ち上がり、
「私もそろそろ次の試合に向けて調整しなくちゃね!」
「またトレーニング?じゃあ木陰で見守っててあげるわね」
オルセとリリアが大きく伸びをし、
「よーし、今回新しい歌も仕入れた事だし、またガンガンライブするわよー」
「来月はパンケーキとパンの耳以外のご飯増やしてくれよなー!」
この場で早速ギターを構えるルチュを牽制するティム。


「あんたら、この家の中片付ける方が先だぞ」
「ああ、うちの店も急いで模様替えしなくっちゃねー」
ナバールとファリーヌが苦笑しながら皆を見やる。
祭も終わり、魔女達と猫達もこうして日常に戻っていくのだった。

「じゃあ私、片付けの間のBGM演奏してるからね!後よろしく!」
「……何だと?そういう事なら私は休憩に備えて菓子を焼きに行くぞ」
「ちょっとふたりとも!いいからふたりでこのテーブル持って、隣の部屋に運んでちょうだい!椅子?椅子はねぇ、確か台所に……」

ー了ー


2015年1月13日火曜日

ハロウィン・ラプソディ・5

滅多に見る事もないようなサイズのカボチャに近寄っていってみるが、見る限り普通のカボチャのようだ。
アリスとオルセが二人がかりでじっくりとカボチャを調べてみたが、やはりどう見ても普通のカボチャのようである。

カボチャを見ていても無駄なようだと見切りをつけたルチュは一人さっさと井戸に向かって歩き始めた。
そして井戸を覗き込もうとした途端。


突然、足元の地面が大きく波打った、かと思うと、
「待てぇーい!」
と、地の底を揺るがすような声が響き渡った。

思わず動きを止めた魔女達の目の前で、見る間に蔓が伸び上がり、巨大なカボチャを支えて持ち上がってゆく。
あっという間に魔女達の頭よりも高い位置にカボチャの頭が立ちはだかった。

「我が名はパンプ・キング!王の名にかけて、これより先には進ませぬぞ!」
見た目は普通のカボチャのままだが、堂々と名乗りを上げる巨大カボチャに、呆気に取られていた魔女達もやっと最初の驚きが収まってきた。

「つまり、カボチャの王様って事?」
「ねぇ、他のカボチャがみんなどこかへ行ってしまったのは、あなたの命令なの?」

オルセの問いかけに、巨大カボチャはうなずいてみせたようだ。
「いかにも、我が皆に避難指示を出したのだ」
「避難?何でまた?」
「何で、だと⁉︎」
ルチュの言葉にパンプキングが吠える。
「考えてもみよ!もうすぐまたあの忌まわしき祭りの日がやって来るではないか!」

「ん?それってハロウィンの事?」
「毎年毎年、祭りの度に、我が同胞達は何の罪もないのに頭をくり抜かれ、無残にも晒し首にされ……我は決めたのだ!今年こそは何が何でも同胞達を守り抜くと!」
既に相当激昂している王の決意はかなり固いらしい。

「人間どもよ、分かったら直ちに立ち去るが良い!さもないとただでは済まさぬぞ!」
言葉と共に太い蔓が空を斬って鞭のように唸りを上げる。仲間を守るためなら、戦いさえも辞さない構えのようだ。


どうしたものかと魔女達も困ってしまった。
王を名乗るカボチャを破壊する事も不可能ではないだろうが、容易ではなさそうだ。
かといって、勿論このまま帰る訳にはいかない。

「あのさー、お前ら、ほんとにそれでいいのか?」
迷った挙句、ティムがカボチャに向かって声をかける。

「祭りに使われないって事は、そのまま腐って枯れるだけって事だぞー?」
「だぞー、お前らほんとにそれで幸せかー?」
ルチュが、ティムの鳴き声を通訳したついでに、その口調を真似ておどけてみせる。

「な、なんだと…?」
虚を突かれたかのようにカボチャの王は一瞬声を失った。

「……混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵みの王よ」
今まで一言も発さずにいたアリスが重々しく巨大カボチャに向かって呼びかける。

「な、何だそれは、我の事か?……何だか格好良いな」
戸惑いながらもカボチャ王は、このアリス独特の呼び名がいたくお気に召した模様であった。

「貴様らには役目がある」
アリスは更に考えながら言葉を継いだ。
「死者達を導く灯火……唯一輝ける晴れ舞台だ」

「……灯火?晴れ舞台……だと?」
顔はないので分かりにくいが、カボチャ王は明らかにアリスの言葉に混乱して動揺を隠せずにいるようだ。

「そうだ。この死者達の祭典は、混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵み達にとって、最大の名誉となるはずだ」
「あー、まあ、他の野菜じゃ代わりにならないからねぇ」
「そうね、こればっかりはカボチャじゃないとね」
更にたたみかけるアリスに、他の二人も声を合わせる。

カボチャ王はすっかり沈黙し、考え込んでしまったようだった。

「我はずっと、同胞達が酷い目に遭わされているものだと思っていたが……それは、我らにとってこの上ない幸せだというのか……」
しばらくしてパンプキングはゆっくりとそうつぶやいた。
うなずく魔女達をもう一度見渡し、うなずき返してくる。

「分かった。我らは、我らにしか出来ぬ役目を果たそう」


納得した様子のカボチャ王と共に、皆で他のカボチャが隠れているという井戸へ向かった。
他のカボチャ達を驚かさないよう、カボチャ王も井戸に連れて入りたいところだが、このままではさすがに無理がある。


少し考えた末に、「小さくする魔法」と「軽くする魔法」をカボチャ王にかけ、一緒に連れて行く事になった。
次に猫達の魔法で暗闇を照らしつつ、空の井戸の底に降りてみると、地面の下を通路が横に伸びている。

そこを少し進むとすぐに大きな空洞に出た。
広い空洞をぎっしり埋め尽くすように、よく熟したカボチャがずらりと並び、幾つかは勝手きままにあちこちに転がっている。


皆がそこに足を踏み入れた途端、いきなり現れた人影に一斉にざわめくカボチャ達のあるものは怯え、あるものは怒り、それぞれこちらに敵意を向けてくる。
どうやら小さくなったカボチャ王をルチュが片手で持ち歩いているのがいけなかったようだ。

「皆の者、静まれーい!」
それでも王の一声でカボチャ達はすぐにおとなしくなった。

「聞け、皆の者!我らは、思い違いをしていたようであるぞ!」
頭をくり抜かれて並べられるのは屈辱ではなく名誉である事、他の野菜には出来ない役目である事、祭りを自分達の力で盛り立てる事……と、滔々とパンプキングの演説は続いた。

はじめは黙って聞いていたカボチャ達に、だんだん熱気と歓喜の声が湧き起こってくる。

「我ら、ついて行きます、王よ!」
「ジーク・パンプ!」
「ジーク・パンプ!」

大変な盛り上がりを見せるカボチャ達を安心して眺めつつも、魔女達はまた頭を悩ませていた。

これだけの量のカボチャを一体どうやって運んだものか。
井戸に入る時には転がり込めばそれで良かっただろうが、その逆にカボチャを井戸から持ち出すのはなかなかに難しい。

「……しょーがないなぁ、とっておきなんだけどな……」
ティムがぶつぶつ言いながら、猫の魔法の品物のひとつである猫バス乗車券を取り出す。
これは猫が運転する魔法のバスに迎えに来てもらい、好きな所まで乗せて行ってもらう事が出来るというとても便利なアイテムなのだ。

ただし、乗車券が足りないので全員で乗る事は出来なかった。
乗車券を切った瞬間に目の前に停車したバスに、カボチャ達を全部みっちり詰め込み、パンプキングから一番信頼されているらしいアリスが先導役に一緒に乗り込む。

そしてとりあえずは一旦農家の納屋にカボチャ達を収穫する事にした。そこからなら通常の手順で出荷出来る事だろう。


「皆の者、しばしここで待機だそうだ!」
バスから順番に降りたカボチャ達は、アリスとパンプキングの指示に従って順序良く納屋に収まっていく。

バスに乗らなかった残りの全員は再びカボチャ農家を訪れ、カボチャが無事戻ってきて納屋に並んでいる事を話した。
その様子を確認しに行くという主人について、皆でぞろぞろと納屋まで行ってみる。


「我らを作り給いし創造主が来られたぞ!」
「創造主様、万歳!」
「王様、万歳!」
「ジーク・パンプ!」

またもや一斉に騒ぎ出したカボチャ達を目の当たりにした主人は、しばらくは驚きのあまり、ぽかんと口を開けたまま言葉も出て来ない様子だった。

「おじさん、カボチャに慕われてるのね。愛情込めて育ててたんだね」
「この畑の魔力のおかげでちょっと変なカボチャになってるけど、出荷して畑を離れれば普通のカボチャに戻るから大丈夫よ、多分」
ルチュとオルセがそう言って笑いかけると、やっと主人も落ち着いたようだ。

「主。うちの店に来るはずだった混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵みだけ先にもらって帰っても良いか?」
「あ、ああ、ファリーヌさんとこか、ええと……」

アリスの言葉に主人はきょろきょろと辺りを見回していたが、
「お前達、南の一角の連中だな?この子と一緒に行くんだぞ、達者でな」
と、特別に艶の良いずっしりと重そうなカボチャを幾つか選んでくれた。

「達者も何も、全て菓子にして美味しく頂くがな」
「あ、ええっと、とにかくカボチャも見つかった事だし、急いで帰りましょう!」



2015年1月3日土曜日

ハロウィン・ラプソディ・4

空き家から出て来ると早速、ナバールの店に出向き、一番はじめに依頼を受けたルチュが代表して一部始終を説明した。

「そうか、あれはやっぱり、前あの家に住んでたルセリアちゃんだったのか……」

はじめはさすがに驚いた様子だったが、人のいいナバールはそう言って言葉を詰まらせている。

そして、隣街へ越して行った両親に宛てて手紙を書くと申し出てくれた。
幽霊となっているルセリアの事は伏せたまま、空き家でパーティーを行う許可と、もし良ければ思い出のあるその家でのパーティーに招待させてほしいという内容にするという。

妥当な内容だろうと判断した一行は、それはナバールに任せる事にした。

「そうと決まれば、パーティーの準備しなきゃね!」
「そのためにも、早くカボチャを手に入れなきゃ!」
こうしてようやく本来の目的地である八百屋へと向かう。


八百屋へ着くと早速、アリスがつかつかと店主に歩み寄っていった。

「主!混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵みはどこだ!」
「は、はぁ!?」
いきなり呪文のような言葉をまくし立てられて目を白黒させている店主の元に、
「あ、えーっと、私達、カボチャを探しに来たんです」
「ファリーヌさんのお店に、まだカボチャが届かないそうなんですよ」
オルセとルチュが慌てて通訳に入る。

「ああ、カボチャの事かぁ」
店主はうなずいたものの、またすぐに顔を曇らせてしまった。

「悪いが、カボチャはうちにもまだ入荷がないんだよ。農家さんに聞いても、なくなった、って言われるだけで、どうにも要領を得なくてねぇ…」
すっかり弱り切った店主の様子に、皆顔を見合わせる。どうやらこれ以上、ここで分かる事はなさそうだ。

「では主、混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵みを育みし恵みの大地はどこだ!」
「あー、はいはい、カボチャ畑だね。お嬢ちゃん達が見に行ってくれるのかい?そりゃ助かるよ、こっちも手が離せなくてねぇ」
アリスの物言いにもすぐに慣れた様子の店主からカボチャ農家の場所を聞いた一行は、すぐにそこを目指す事にした。


畑は街外れの門の外にあるらしく、歩いて行ってはだいぶ時間がかかってしまう。
そこで皆は魔女らしく箒で飛んで行く事にした。歩くよりは相当早い。

しかし、箒で空を飛ぶためにはやはりそれなりの技量が必要である。魔女の基本的な力のひとつとはいえ、 そこそこ難しいものなのだ。

アリスとルチュは、それぞれ自分の箒に猫も一緒に乗せ、地面を蹴ってふわりと宙に浮き上がった。そのままバランスを取って、街外れ目指して飛び始める。

ところがオルセは今日に限ってどうも調子が悪く、上手く空に舞い上がる事が出来ずにいた。普段、仕事でも空を飛んでいるというのに、いざという時に飛べないというのはちょっとしたショックである。

他の二人の姿はみるみるうちに遠ざかっていった。徒歩で行くのではとてもではないが追いつけそうにもない。

「置いて行かれちゃったわよ?」
リリアが冷ややかにオルセを見上げる。
「うーん、今日はどうやっても飛べそうにないわ。でもこのままじゃはぐれちゃうし……リリア、お願い!」
「もう、しょうがないわねぇ……」

手を合わせるオルセに大げさに溜息をついてみせてから、リリアは何やら鳴きながらピンクの尻尾でくるりと円を描いた。

たちまち何もない空中に黒い穴が出現する。これは猫魔法のひとつ、「ねこあな」というもので、穴をくぐった猫と魔女は、ただちに好きな場所へ移動出来るという便利なものだ。

しかしねこあなを通るのは魔女にとって恥ずかしい事とされているので、他の人に見られないように入らなければならない。
周囲に人の気配がないのを確認し、こっそりとねこあなに潜り込むオルセであった。


その頃、先を飛んでいる二人は、街の中心に差し掛かっていた。
街の中心には広場があり、その少し先に大きな時計塔が建っている。

時計塔の脇を飛んで抜けようとした魔女達の耳に、ひゅうひゅうと風を切る音に混じってぎゃあぎゃあと耳障りな鳴き声が聞こえてきた。
目をやれば、時計塔に留まっていた数羽のカラスが、明らかに気が立っている様子でこちらに向かって飛んでくる。どうやら攻撃を仕掛けてくるつもりのようだ。

カラスの爪や嘴が届く前に、アリスは空中で戦うキャットファイトを選んだ。速度を落とし、迎え討つ体勢を整える。

「我が尾の力、受けてみるがいい!」
アリスの考えを察したノブナガがいち早く箒の上で身を躍らせ応戦する。
自分の尻尾を弓と化し、魔法で出現した矢を射る事の出来る猫魔法、「尻尾の弓」だ。
魔法自体の効果に加え、ノブナガは自分でも尻尾を鍛えて強化しているので、その威力はなかなかのものである。

一方、ルチュの方はいちいちカラスなど相手にする気はさらさらなかった。迷いもせず一気に速度を上げて飛び抜ける事を選ぶ。

「スピード出す時は事前に言えよぉっ!」
あわや振り落とされそうになったティムが慌てて箒にしがみつくが、ルチュはそのまま速度を上げてカラスを振り切る事に成功した。

ノブナガの矢が見事に命中し、カラス達が怯んだ隙に、アリスもスピードを上げて牽制に入る。
気勢を削がれたカラス達を置き去りにして、何とかこの場を切り抜ける事が出来たようであった。


こうして二人がカラスをやり過ごし、街外れまでやって来ると、そこには既に到着していたオルセが待っていた。

「別の道から来たの?いつの間に追い越されたのかしら」
「さすがは熟達の競技選手、なかなかやるな」
「あー、うん、私も今着いたとこよ」
二人の言葉に苦笑いで答えるオルセ。

「それより、どうしましょうか?」
周囲には広い畑が広がっているが、一面、青々とした葉っぱが茂っているばかりだ。よく見ればあちこちに実をもいだような跡が残る蔓も目立つ。

そして少し離れた所にぽつんと一軒の家と小屋が建っているのが見えた。きっとあれがカボチャ農家なのだろう。


とりあえずカボチャ農家へ向かい、話を聞いてみる事にする。

農家の主人はほとほと困り果てた様子で、一週間ほど前の満月の夜、出荷間近のカボチャが一晩のうちに忽然となくなってしまったのだと話した。
とてもではないが一度に全部運び切れるような量ではないというのだが、原因は分からないままカボチャが全て持ち去られてしまったようだという事実に変わりはない。

しかし主人のいう事には、一番北の端にあるカボチャが一株だけ、残っているらしい。

話を聞いても謎は解けないままなので、魔女達は自分達で調査を進めるべく、もう一度畑に戻った。

「つまり、一週間前に何があったか分かればいいのよね」
そのためにどうすればいいかあれこれ考えた末に、オルセが普段から趣味で持ち歩いている小型の写真機を取り出した。写真機に魔法をかけ、問題の晩に何があったのかを撮影してみようというのだ。

一週間という時間を遡るのは少し難しい試みであったが、この畑に満ちている強い魔力と、リリアが手助けに入る事により、オルセの魔法は見事に成功した。


早速、写し出された何枚かの写真を皆で覗きこんでみる。そこにはまだきちんとカボチャが写っていた。

しかしそのカボチャは皆、蔓を切り、畑から抜け出し、一列に並んでごろごろと北の方を目指して転がっていっているのであった。
見る限り、誰かがカボチャを運んでいる訳ではなく、カボチャが自力で移動していったようだ。
何とも不可思議な光景だが、この場所には強い魔力が満ちているようだったし、ありえない話ではない。


とりあえず、写真に沿って自分達も北の方へ歩いていってみる。

すると果たして畑の一番外れには、農家で聞いた通り、一株だけカボチャが残っていた。
差し渡し1メートル以上はあろうかという、かなり巨大なカボチャだ。

そしてその向こうには、井戸があるのが見えた。


2014年10月29日水曜日

ハロウィン・ラプソディ・3

その頃、空き家を見に行ったルチュの方はといえば、早速ナバールから鍵を受け取り、空き家の中に入り込んでいた。
薄闇に目が慣れるのを待つつもりもなく、閉じていた雨戸をばんばん開けて回る。

うっすらと埃の積もった部屋の中は見事にがらんと何もない。
しかし、一つの出窓の端にぽつんと、置き忘れられたかのように小さなウサギのぬいぐるみがあるのを発見した。見たところ、真新しい物ではなさそうだ。

「あらあら、こんなところにお客さんね!」
観客がいると喜んだルチュは、躊躇なくぬいぐるみを持ち上げ、真っ直ぐに向きを直して座らせると、その正面に立ってギターを構えた。

そのまま初めの音をかき鳴らそうとした次の瞬間。

「おねーちゃん、お歌聴かせてくれるの?」

突如、耳元で小さな女の子の声がした。相手の姿は見えない。

「あら、あんたもお客さんね?じゃあ、ちゃんとこっちに来て、座って聴きなさいね?」
それに対し驚くどころか嬉しそうに言ってのけるルチュに、
「はぁい」
と、素直な返事が聞こえ、次いでてとてととかすかな足音だけが響く。
それから出窓に座っていたぬいぐるみがふわりと宙に浮き、ふわふわとこちらへ向かってやって来た。
ぬいぐるみの手足はだらんと垂れたままで、ぬいぐるみそのものが動いているというよりは、誰かに抱えられて動いているような感じに見える。
やがてぬいぐるみはルチュから少し離れた空中に止まり、ぱちぱちと小さな拍手の音だけが聞こえてきた。

満足げにうなずいたルチュは、早速新作の歌を披露し始めるのだった。


そんな訳で、魔女と猫達がナバールの酒場に立ち寄ろうとした時には、何故か裏の空き家からガンガンギターの音が響いてきている最中だった。

「……何やってんだあいつ」
「調査、ではなかったのか?」
「…えっと、よく分からないけど大丈夫そうね?」

アリス達がしばし呆然と立ち尽くしていると、ちょうど酒場からナバールが出てきた。さすがにこのままでは近所から苦情が来ると思ったらしい。

ナバールから再び説明を聞き、空き家の調査、というよりはルチュを止めるために空き家へと向かう。

「おーいルチュ、何でギター弾いてんだよぉ!おーい?おーいったらぁ!」
ルチュの姿を発見して声をかけてみるものの、ティムの言葉には全く関心を払う様子がない。
他の者も口々に呼びかけてみるが、全く同様で、ルチュはひたすら一心不乱にギターをかき鳴らして歌っているだけだ。

一見すると実に異様な光景ではあるが、これがこの家にいるかもしれない幽霊などの仕業ではなく、単なるルチュの日常なのだという事は、パートナーのティムのみならず、そう付き合いの長くない魔女達にもよく分かっていた。

「もうっ、いい加減にしなさいよね!」
無視されて業を煮やしたオルセが魔法を使い始める。

魔女の魔法というのは、実に便利なもので、基本的には自分が思い描いた通りの事をほぼ実現出来る。
ただし、勿論、得意不得意には個人差もあり、周りに大きな影響を与えるようなものは難易度も高いため、失敗してしまう事もよくある事だ。

はじめは単純に「周囲の音を消す魔法」を思いついたオルセだったが、すぐにそれでは自分や他の皆の声まで聞こえなくなってしまうと思い直した。

考えた末、オルセが選んだのは「ギターの弦の震えを止める魔法」
これならば自分達の会話の妨げになる事なく、ルチュのギターの音だけを消す事が出来るはずだ。

果たして、オルセが考えた通りの魔法を実行すると、ルチュがかき鳴らしていたギターの弦がピタリと止まり、同時に音の方もきゅるううぅんと間伸びした音を発したのを最後に静かになった。

全員がホッと息をついたのも束の間、
「あらあら、ギターの故障?じゃあ仕方ないわ、アカペラで歌うしかないわね!」
全くめげないルチュの根性は見上げたものだが、全員が更にどっと疲れたのも事実である。

「ルチュ!話を聞いて!」
オルセが間髪入れず声をかけるとルチュはやっと皆が集まっている方へ目を向けた。

「あら?みんないつ来たの?」
「さっきからずっと呼んでるわよ、もうっ!」
それでもやっとルチュがこちらに気付いてくれたので良しとする事にして、これ以上話がややこしくなる前にさっさと本題に入ろうとオルセが言葉を継ぎかけた途端。


「おねーちゃん、もうお歌終わりなの?」

聞き慣れない少女の声と共に、小さなぬいぐるみがふよふよと宙を飛んでこちらに寄って来たものだから、オルセはそのまま声を飲み込みその場に固まってしまった。

代わりに、別段ルチュが動じていない様子なのを見て、ティムがにゃーにゃーと挨拶のような声を上げる。

「わあ、猫ちゃんだぁー!」
無邪気な声と共に、ティムの頭の毛だけがわしゃわしゃと動いた。

最初の驚きが収まったオルセはためらいがちに手を伸ばし、ぬいぐるみに触れてみた。
空中に浮遊している訳ではなく、どうも何かに固定されているかのような感覚が返ってくる。

困惑したオルセが振り返ると、アリスと目が合った。
いつも無表情なアリスには珍しく、黙ったまま頬だけを上気させ、瞳を輝かせて食い入るようにこちらを見ている。

そのアリスの前に、彼女の猫ノブナガがサッと躍り出てきたかと思うと、鳴きながら飛び上がり、アリスの目を引っ掻いた。

当のアリスよりもオルセの方が驚いて短く声を上げたが、すぐにこれはノブナガが危害を加えようとした訳ではなく、猫の魔法なのだという事に思い至る。

猫の魔法というのは、魔女の魔法のように何でもありという訳ではなく、予め幾つかの効果が決まっている上、限られた回数しか使う事が出来ない。その代わり、失敗する事はほとんどない。

今ノブナガが使ったのは、目を引っ掻く事により、普通では見えないもの、例えば音や匂い、あるいは霊的なものなどが見えるようになるという猫魔法であった。
そのため、今やアリスの目には、ピンクのウサギのぬいぐるみをしっかりと抱き抱えた、茶の長い髪に青い瞳の小さな女の子の姿がはっきりと見えるようになっていた。

「……この世の者ならざる、海王神の瞳持つ少女よ。お前は何故ここにとどまる?」
問いかけるアリスの声は多少震えを帯びていたが、それはどうやら恐れのためではなく、初めて目にする幽霊にいたく感銘を受けての事のようだ。

問われた女の子の方はといえば、しばらくきょとんとアリスを見つめていたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。

以前、ここに両親と共に暮らしていた事。
自分はずっと病気で家の外に出られなかった事。
ある時、ひどく泣いていた両親が突然自分を置いてどこかへ引っ越して行ってしまった事。
その頃から、呼びかけても誰も気が付いてくれないか、気付いても逃げて行くようになってしまった事。

つまり、この子はどうやら、自分がもう亡くなってしまったという事をきちんと認識出来ていないようなのだった。
「それでずっと泣いてたの?寂しかったね」
オルセが優しく声をかける。
「ううん、ひとりでいるのは慣れてるから平気だよ!でもね、もうすぐハロウィンでみんな楽しそうで、あたしも一緒に遊びたいなーって思って……」
「そっかぁ……」
魔女と猫達は一斉に顔を見合わせた。

「何とかしてあげたいわね」
オルセの言葉に皆、一様にうんうんとうなずく。
「あたし達でハロウィンすればいいんじゃないの?」
何の事はないとあっさり言い出すルチュ。
「それなら、一緒にハロウィン出来るものね」

そのルチュの提案を皮切りに、
「じゃあ、姿が見えないのは不便だから、そのお人形と同じ着ぐるみでも着てもらうのはどう?ハロウィンだし仮装でもおかしくないでしょ?」
「それなら、近所の人達も呼んで賑やかにやってもいいわね!」
「この少女がこの地に縛られているのならば、会場はここしかないな……」
「じゃあここでパーティーする許可をもらわなきゃね!」
と、話がとんとん拍子に決まっていく。

「ハロウィンの日に、ここでみんなでパーティーするからね。そのウサギさんとお揃いの格好するのはどうかしら?」
「みんなでこれから準備しに行くからね、楽しみに待っててね!」
「ほんと!?じゃああたし、ここでおねーちゃん達待ってる!ウサちゃんとお揃いする!」

こうして小さな女の子の幽霊と別れた一行は、ひとまず空き家を後にした。








2014年10月21日火曜日

ハロウィン・ラプソディ・2

同じ頃、街の北側にある劇場の練習室は、一人の少女と一匹の猫によって占拠されていた。

防音の設備も整ったこの劇場では特に周囲から苦情が来るような事もなかったが、部屋の中は、少女の話し声に、よく言えばパワフル、悪く言えば少々騒々しいギターの音と、それに負けじと張り上げられた猫の鳴き声が入り混じってかなり喧しい状態になっている。

「ねー聞いて!先月はライブも結構出来たから、今月のお給料はなんといつもの2倍よ、2倍!」
「おおっ、そりゃすげー!これで毎日パンケーキばっかりの生活とはおさらばだなっ?」
闊達に話す少女の、少し縮れた長い銀色の毛の先はてんでんばらばらにはねたりもしているが、黒っぽい服に身を包み、鮮やかな青いギターを抱えた少女本人はあまり気にする風もない。

「うん、だからね、思い切って前から欲しかったギター買っちゃった!お給料全部つぎ込んじゃったけど、これでまたガンガンライブするわよー!」
「ばーかーやーろーぉっ!そんな事したらまたパンケーキだけになっちゃうじゃねーかっ!」

窓辺に寝そべっていた猫が立ち上がって毛を逆立てた。真っ黒に見えていた猫の毛が朝日に当たり、金属のような光沢を持つ青や緑が黒の間にちらちらと見え隠れする。猫の方へ歩み寄る少女の黒い服も、光を反射して青や緑に瞬いて見える。

「まーまーそう言わないで。一日3時間ブラッシングしてあげるから。ね、ティム?」
「うーっ……しょ、しょーがねぇなあ、じゃあそれで特別に我慢してやるよっ……」
そう言ってまたその場に丸まりそうになった黒猫ティムを、側に来た少女がひょいっと抱えあげる。

「じゃ、そろそろここ借りてる時間も終わりだし、ファリーヌさんとこ行っていつものパン買いましょ」
「おう、焼き立てパンだなっ?」
「焼き立てパンの耳、ね?」
律儀に訂正する少女にこれ以上文句を言っても無駄なようだと早々に悟り、いつもの事だとうなだれるティムであった。


「おうルチュ、いいとこにいてくれた!ちょっと頼みたい事があるんだが……」
劇場を出て歩き始めた途端、黒猫と青いギターを抱えてご機嫌な少女にそう声がかかる。

声をかけて来たのはがっしりと大柄な男性で、劇場のすぐ近くに大きな酒場を構えているナバールという人物だった。

「ん?ナバールさん、あたしに何か用?」
灰色髪の少女、ルチュはご機嫌なまま立ち止まる。
「ああ、ちょっと困ってるんだ。あんた確か魔女だったよな?」
「ええ、そうよ!」

胸を張って見せるルチュにナバールが話すところによると、自分の店の裏手に小さな空き家があるのだが、最近そこで奇妙な事が起こるのだという。
夜になるとしくしくと女の子の泣き声が聞こえるのだが、誰もいる気配はない。このままではどうも気味が悪いので、何があるのか調べてもらいたいというのだった。

「んー?オバケでもいるのかな……どーするよルチュ?」
そう問いかけるティムの言葉は、ナバールには普通の猫の鳴き声にしか聞こえない。
「そうねぇ……ナバールさんにはお世話になってるし、調べてあげてもいいわよ!」
特にためらう様子もなく言い放つルチュ。
「お代はライブ1回ね!」
「あー、うん、まあ……大物ミュージシャンの前座って事でも良けりゃ……」
「つまり対バンって事ね!」

こうしてあまり人の話を聞くことなくナバールの頼み事を引き受けたルチュは、紙にさらさらと何やら書き付け、その紙と硬貨をハンカチにくるんでティムの首に結び付けた。

「じゃ、あたしは早速その空き家とやらを見に行って来るから!ティムはお使いお願いね!ちゃんといつものパンの耳くださいって書いといたからね!」
「おいおい、まだ朝だぜー?」
「あー、昼間は特に変わった様子はないが……」
ティムの鳴き声とナバールの言葉が重なるが、ルチュは一向に気にする風もなく、陽気に手を振って、さっさと方向を変えて歩き出した。

「大丈夫か…?」
「にゃあ……」
再び、言っても無駄だと悟りうなだれたティムも、こうなれば早くお使いを済ませて合流しようと反対方向へ向けて歩き出すのであった。


ティムが目指す店の前にたどり着くと、そこには淡いピンクにリボン柄の猫がすました様子で座っていた。

「おー、リリア、久しぶりー!お前もパンの耳買いに来たのか?」
「パンの耳じゃなくて、焼き立てふわふわパンよ」
ちらりとティムの方へ視線を投げたピンクの猫、リリアが気取った表情のままでそう答える。

そこへ、尻尾をぴーんと立てた漆黒の、よく見ると腹側だけは真紅の猫がずかずかと歩いて来た。

「あれ、ノブナガじゃねーか、珍しいな?普段は店の奥にいるのに」
声をかけられた黒赤のアリスの猫、ノブナガは一瞬ティムの方を向いたもののそのまま立ち止まろうとはせず、
「これから出陣なのじゃ!」
と勇ましく叫び、意気揚々と歩き続ける。

「よし皆の者、続け!」
「おおっ?お館様ーっ?」
条件反射というかその場のノリで思わずノブナガの後について行くティムに、リリア、そして魔女猫達のパートナーであるアリスとオルセが続く。

「んで?どこまで行くんだこれ?」
「八百屋へ出陣するのじゃ」
「何かね、カボチャがないか聞きに行くらしいわよ。カボチャなんか美味しくもないのに」
「ふーん。うちのルチュ、好きだけどなカボチャ。まあ食えるもんなら何でも食うけどな、あいつ」

猫達がそう鳴き交わしている横で、オルセも何くれとなくアリスに話しかけているが、アリスから返ってくるのは「ああ」とか「いや」といった短い返事ばかりである。

それでも、別に話を聞いていない訳ではない事くらいは分かっていたので、オルセも特に気にする事はなかった。

「毎朝お店で会うけれど、ゆっくり話すのは久しぶりよね。魔女夜会以来かしら?……あら?」
そこまで言ったところで、ふとオルセは改めて周りを見回した。
「そう言えば、ティムはいるのに……ルチュは来てないの?」
「あー、何かオバケ屋敷見に行ってるぜ」

水を向けられたティムの非常にざっくりとした説明をリリアがそのままオルセに伝える。
さすがに状況が把握出来なかったらしく目を丸くするオルセを見て、ティムが面倒そうに説明を加えていった。

「ひとりで大丈夫なの、それ?」
「ナバールの酒場なら八百屋に行く途中に通る……」
誰にともなくボソリと言葉を発するアリスも、どうやら心配しているらしい。
「そうね、念のため見に行ってみましょ」
「……そうだな」
そんな事を話しつつ一行は歩を進めた。

2014年9月24日水曜日

ハロウィン・ラプソディ・1

秋の深まりと共に、木々も鮮やかな赤や黄色に染まり、少しずつ寒さの増してくる季節。


ハロウィンの祭りを1週間後に控えたサラドの街は、うきうきした空気に包まれていた。
オレンジや黒の、カボチャや蜘蛛の巣が街のあちこちを飾り、お化けや猫をかたどったお菓子が溢れている。

そう、ハロウィンと言えばカボチャとお菓子が付き物だ。
街で評判の人気店、ここ「カフェ・ファリーヌ」の一角にも当然ハロウィンコーナーがしつらえられ、可愛らしいお菓子がたくさん、オモチャ箱のように詰め込まれていた。

しかしその中に、連日売り切れ必至の、一番人気のパンプキンパイが見当たらないのはどういう訳だろう。
あれはわざわざ隣街から買いに訪れる客もいるほどの品だ。今年から店に出さないとは考えにくかった。
パイはおろか、タルトもプディングも、クッキーさえも、カボチャを使ったものは一つもない。
そろそろそういったカボチャの菓子を出しても良いのではないか、いやむしろ遅いくらいだろう。

早朝に焼き上げられた、カボチャの入っていないカボチャ形のクッキーを並べながら、アリスは首を傾げていた。
アリスはこの春からこの洋菓子店に勤めている魔女の少女だ。

この街にはアリスのような本物の魔女が少なからず暮らしている。そしてそれは別段珍しい事でもない。
もっとも、魔女になるのは必ず13歳からと決まっていて、アリス自身はここに勤め始めるほんの少し前に魔女になったばかりだから、まだまだ新米魔女といえよう。


一通り商品の補充を終え、後は開店を待つばかりというところで、奥からこの店の主人、ファリーヌが現れた。
自ら店に立つ事も多いファリーヌは、今日も明るい金色の長い髪を高い位置で結い上げ、その愛嬌のある顔立ちには、アリスが着ている物と同じ、白にレースをふんだんにあしらったブラウスとスカートに、ピンクのエプロンが実によく似合っている。

「あのね、アリスちゃん。ひとつお願いがあるんだけれど……」
無言で頭を下げたアリスに、ファリーヌがにっこりと話しかけてきた。
「ちょっと困った事があってね……もう気付いてると思うんだけど、今年はカボチャのお菓子がないのよ。ううん、作りたくても作れないの」

ファリーヌの話すところによると、入荷するはずだった材料のカボチャが品切れで入ってこないのだという。自分は店を離れる訳にはいかないので、アリスに八百屋まで行って状況を聞いてきてほしいというのだった。
「お願い出来る?勿論その間のお給金もきちんと払うから」
重ねて問われ、アリスが無言のままでうなずくと、ファリーヌは安心したように笑顔を見せた。
「良かった、じゃあ悪いけど早速お願いね」


ちょうどその時、店のドアについているベルが軽やかな音を立て、今日一番の客が入って来た。
アリスと同じ時期に魔女になった、言わば同期の少女、オルセだった。

オルセは大きな名家の一人娘であり、現在は箒に乗って空中で行われる球技のプロスポーツ選手として活躍している。
魔女となり独り立ちしてからも裕福に暮らしている彼女は、毎朝決まった時間に焼き立てのパンを買いに来る常連客なのだ。

オルセの後をしゃなりしゃなりとついてきていた猫が店のドアの前でピタリと止まり、菓子などには興味はないとばかりについっと横を向く。
取り澄ましたその猫の毛皮は全身淡いピンクで、ところどころに小さなリボンのような模様が飛んでいる。
同じようにオルセの服も、上品な落ち着いたピンクに、小さなリボンが控えめにあしらわれたものだ。
ややくすんだ色味の金の髪をすっきりと切り揃え、軽く陽に焼けた肌のキリッとした顔立ちに深緑の目をしたオルセにピンクのリボンというのは、甘すぎもせず、ボーイッシュに過ぎる事もなく、不思議とミスマッチな魅力を醸し出している。

魔女というのは必ず、自分のパートナーとなる猫を連れているものだ。魔女とその猫の間だけでは会話が通じる。たとえ魔女であっても、他の魔女のパートナーである猫とは会話が出来ない。
そして魔女というのは、自分の猫の毛皮と同じ色、柄の服装をするのが慣わしとなっている。
魔女猫の中には突飛な色柄のものも多くいるため、ピンクが飛び抜けて奇抜だという訳でもないのだ。


「あらアリス、どうしたの?朝から難しい顔しちゃって」
そう声をかけてきたオルセを相変わらず無表情に見やったアリスは、
「ふん、貴様には関係のない事だ!」
そう言い放つや、呆気に取られるオルセの脇を抜けてそのまま外へ出て行こうとする。

「ちょっとちょっと!もう、何言ってるのこの子ってば!」
ファリーヌの方が慌てたように声を上げ、助け船を出してくれた。
カボチャの入荷がない事を話し、アリスに八百屋の様子を見に行ってもらうつもりだと説明する。
「もし良かったら、オルセさんも一緒に行ってみてもらえないかしら?この子一人だとどうも不安だし……」
「ハロウィンなのにカボチャがないなんて寂しいですものね、勿論いいですよ。今日はトレーニングもないですし」
オルセは快くうなずいた。
行きつけの店に菓子がない、という事以上に、ファリーヌはオルセやアリスの先輩に当たる魔女なのだ。上下関係の厳しい世界で育ってきたオルセにとって、先輩に頼まれれば断れないのは当然の事である。

「そうですね…タルトひとつで手を打ちます!」
半ば冗談で提案したオルセに、ファリーヌは再びにっこりと微笑んだ。
「勿論、カボチャさえ手に入ればそれぐらいはお安い御用よ。特別予約分として焼いてあげるわ」
二人がそんな会話をしている間にアリスは黙ったままくるりと向きを変え、店の奥へ消えて行った。


しばらくして戻ってきたアリスは、ガラリと雰囲気の違う私服に着替えていた。レースがふんだんに使用されているところはファリーヌお気に入りの制服と同じだが、黒を基調に赤をアクセントにしたゴスロリドレスで、片方の目には黒い眼帯を着けている。
魔女の象徴たるマントも黒に赤の裏地、やや襟の立ったものだ。
結っていた長い真っ直ぐな黒髪を下ろし、透き通るほど色の白いアリスにその衣装はよく映えている。

そしてアリスの足元には、いつの間にかマントと同じ色、つまり背中側は漆黒だが腹側は真紅の毛並みの猫が控えていた。
しなやかに優雅なオルセの猫とは違い、こちらは引き締まった体躯に精悍な顔付きをした猫で、毛の先はところどころラフにピンピンとはねあがっている。
猫同士もお互いをチラリと眺めやっただけで特に挨拶を交わそうともしないようだ。

「準備出来たみたいね?」
オルセの問いかけに、無言のままながらアリスがうなずいてみせた。