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2011年9月19日月曜日

剣の戦士団・2

暦の上では初夏から夏に入ったばかりの季節の中を古い街道に沿って進んで行く。滅びた都へと続く打ち捨てられた街道には長らく行き来する者もなく、雑草が茂っていたりする場所もあるが、かつての繁栄を偲ばせるかのように未だ踏み固められた道が残っていた。
じりじりと夏の太陽が容赦なく照りつけ、時折乾いた風が埃を含んで吹き抜けていく。
周囲はところどころ尖った岩が覗いている灰色の岩砂漠だ。見通しは悪くないが面白味もない景色が延々と続いている中、粛々と進む遠征軍の足音が響く。廃墟への道中も決して安全とばかりは言えないのだ。




そんな緊張感溢れる遠征のさなか、隊列の比較的先頭の方から、
「ねーねーボクも馬に乗りた~い!」
と、場違いに能天気な声が聞こえてくる。
「私では2人乗りは出来ないので…また今度、ですね」
「え~、つまんな~い!」
騒いでいるのはウェンディーネ、なだめているのはカサンドラだ。
カサンドラは特に馬上で戦う術に熟達しているので、共に戦って来た栗毛の愛馬アポロニウスを当然のようにこの道中連れて来ている。
ついでに言うなら、カサンドラは今回この遠征のために愛用のランスも私財をつぎ込んで魔法の武器へと新調していた。
そこで皆と歩調を合わせ、馬上から周囲を警戒しているところをウェンディーネに捕まったという訳である。
「街に戻って来る楽しみが増えますよ」
「やだやだ今がいい~!」
カサンドラになだめられてなお、ウェンディーネが駄々をこねていると、
「……ウサギ」
そのまた傍を歩いていたヴァルドがウェンディーネに向かい低く呼びかける。
「遊びに行くのなら、帰れ」
「え~、ボク別に遊びに行く訳じゃないもん」
ぷくっとむくれたウェンディーネはそれでもそれきり静かになった。
そんなウェンディーネを一瞥して歩き続けるヴァルドに、
「あの~、暑くないんですか~?」
と今度はサフィールがのんびりと話しかける。
確かにそう問いたくなるのも無理はない。陽差しを遮る物とて何もない砂漠の真っ只中、頭上からは太陽の熱が肌を焦がすほどに降り注いでくるというのに、ヴァルドは街にいる時と同じように真っ黒なマントに身を包んだままなのだ。
「……別に」
「えぇ~、絶対暑そうですよ~?あ、もしかして氷のお護りとか持ってます~?」
「特にない」
相変わらず素気ないヴァルドにサフィールが更に何か問いかけようとした矢先、
「あなた達はずいぶん呑気ねぇ」
と、横合いから別の声が割って入った。
見れば、声の主はサフィールとよく似た雰囲気のエルフだ。薄いローブを纏い、杖を手にしているところから見てもやはり魔術師なのだろう。
「え~、そうですか~?」
サフィールがおっとりと答え、ヴァルドはふいっと横を向く。
「そんなんでこの先、大丈夫なの?」
いきなりずいぶんな言われようではあったが、
「何がです~?」
とサフィールはにっこり笑顔を作り、
「ちゃんと戦えるのかどうかっていう事よ」
生真面目そうなエルフの方がムッとした様子で言葉を返してくる。
「あら……じゃあ、わたしの戦い方、見てみます……?」
サフィールが笑顔のまま更に目を細めるが、その瞳は決して笑ってはいなかった。
馬上からそのやりとりを見ていたカサンドラは一瞬背筋がぞくりと凍り付く感覚を覚えた。
(今、急に雰囲気が変わった……?)
それはほんの一瞬の事で、サフィールはもう先ほどと同じ柔らかな笑顔に戻っているが、決して自分の思い違いではないという確信があった。
「まぁまぁ、君達。この先、嫌でも戦う機会があるさ」
エルフの魔術師と同じパーティーにいるらしい、美青年の人間の剣士がそうとりなしているのが耳に入る。
その向こうにはカサンドラと同じくザイアの神殿に常駐している神官重戦士、「鉄壁」の異名を取る竜人リルドラケンのドーラの姿も見えた。
ドーラと目が合ったので、カサンドラは馬に乗ったまま一礼した。ドーラも片手をあげてそれに応え、
「まあ、一緒に戦う機会があるかどうかは分からないけどね」
そう言いながらこちらに歩いて来た。
リルドラケンというのは、乱暴な言い方をすればほぼ直立したトカゲである。従って見た目では性別の区別が付けにくいものだが、ドーラは背びれの一つ一つに色鮮やかなピアスやスタッドを着けている、お洒落な女性である。
「でも、私達は大きな戦力として期待されているわよ」
確かに、カサンドラやドーラのパーティーは集まった遠征軍のうちでもそれなりに場数を踏んだ実力の持ち主ばかりのようだ。どちらかと言えばもう少し経験の足りない者達の方が軍の大半を占めている。勿論、もっと高位の神官も同行していない訳ではないが、そういった者は本陣に留まって指揮を執る事になるだろうから、実際に先陣を切って戦うのは自分達の役割となるだろう。
そう思うと改めて自分達の役目の重さを感じざるをえない。

しかし、幸いな事にその日は特に変わった事もなく進軍を続け、暗くなる前に街道脇に野営地を定め、一晩を越す事になった。全体の人数が多いため、交代で見張りに立つ時間は1時間で済む。暗くなる前にあちこちに焚き火やかがり火がたかれ、簡単な食事が振る舞われた。明日に備え早々と横になる者が多いようだった。

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