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2011年9月19日月曜日

剣の戦士団・1

中規模の商業地として発展しつつある街、ローファ。
そのローファの東、2日ほどの場所にその廃墟はある。
かつて商業の都として栄え、15年ほど前に蛮族との戦いにより放棄され滅んだその都、ロンダルについて、吟遊詩人はこんな物語を唄う。




♪……3つの剣に守られし都、
その終焉の時はきたれり。
輝きに満ちた日々は過ぎ去り、
人々はただ迫り来る暴虐の大波に
さらわれるのを待つのみ。
絶望のさなか、その絶望的な運命に
抗う者あり……♪


都の前に陣を張りその大波に挑み続けた一団は、千にも満たぬ小さな戦士団ながら、数千を下らぬ蛮族の軍勢を相手に月が一周りをする以上の時を耐えた。
彼らは剣の戦士団と呼ばれ、その旗頭たる三振りの剣はそれぞれの用いた武具の色を以って称されていた。

第一の剣、真紅の鎧に真紅の剣、焔を纏い門を護りしは、赤の戦士。
第二の剣、白銀の鎧に白銀の槍、閃光の如く戦場を駆けしは、白の騎士。
第三の剣、漆黒の鎧に漆黒の大剣、蛮族すらも恐怖せしめしは、黒の剣士。

千の剣の命を賭した戦いにより、都で死を覚悟していた民は皆、隣国へ逃げるための時を得、この戦による死者はおよそ千人と言われる。

剣の戦士団、生存者、なし……

都を制圧し、休息ののち隣国へとその侵略の手を伸ばすはずであった蛮族の軍勢であったが、数日の後、突然都を放棄、撤退して行った。
偵察に出た隣国の騎士の一団によると、剣の戦士団は、死してなお戦いを続け、今なお、もういない敵との戦いを続けているのだという……
放棄されたその廃墟には、未だ戦に囚われ続ける死者たちの亡霊が今も彷徨い続けている。

もともと隣国の街であり、かつて滅びた都ロンダルから逃げのびた者も多く住むここローファでは、剣の戦士団は英雄として語り継がれ、称えられている。
……と同時に、言う事を聞かない子供を叱る際に「いい子にしていないと剣の亡霊が来るよ」などという脅し文句としても使われている。


そんな街で、死者たちの開放を目的とした遠征軍の話が持ち上がった。
中心となるのは騎士神ザイアの神殿。
多数の神官や神官戦士を擁するこの神殿では、死者達が眠りにつけぬ原因を調査、更にその原因を排除し、未練を断ち切る事で死者達を成仏させようというのだ。
神殿だけでは戦力を賄い切れないため、高額の報酬を約束して冒険者の有志をも募っている。
その呼びかけに応えた者達で今回の遠征軍は結成された。
遠征軍は更に数名ずつのパーティーに分けられ、今後パーティー単位で行動を共にする。
重苦しく緊迫した空気の中、それぞれのパーティーごとに集まり、最後の準備が行われる事となった。
街を一歩出たら、もはや軍備の補給は不可能だと見て間違いはない。神殿の補給部隊が同行するとはいえ、出来る限りの準備はしておくべきだろう。

「え~っと、少しお薬を買い足しておきたいんですけれど……」
「そうですね。でも、まずは自己紹介かしら?」
「あ~、そう言えば初めましてかもですね」
4人が配属される事となった第5小隊では、初顔合わせの後そんな会話が交わされていた。
「ではまず、私から…」
そう名乗りを上げたのは、金に近い薄茶の瞳に、赤みがかった茶色の髪を短く切り、装飾よりも実用性を重視した無骨な鋼鉄の鎧に身を固めた大柄な女性。傍には飾り気のない鈍く光る馬上槍を携えている。
「私は、ザイアの神官、カサンドラと申します。未だ修行中の身ではありますが……今回はかくも危険な任務にお集まり頂き、感謝します。どうぞ皆様のお力をお貸しください」
はきはきとそう話し、折り目正しくきっちりと頭を下げる。
「はぁい、頑張ります~」
ひらひらと手を振ってそれに応えたのは、先ほどカサンドラと話していた華奢なエルフ。白く長い髪をそのまま背中に流し、水色に近い薄い青の瞳に、その瞳と同じ色の透き通った石が嵌め込まれた変わった意匠の杖を手にして、淡い青のローブを羽織っている。
「わたしはサフィールっていいます。この子はロッシェ。よろしくお願いしま~す」
おっとりとした口調で肩の上にいる小さな灰色の猫を撫でている様子はあまりにも緊張感がないが、見る人が見ればその猫は使い魔、つまりそれなりの腕の魔術師だと気付く事だろう。
「あ~、ネコだネコだ、可愛い~!」
これまた突拍子もなく緊迫感の欠片もない声を上げたのは、全体に白い毛並みだがところどころ黒に近い茶が混じっている小柄なタビット。
「ボクはウェンディーネだよ。魔法の銃が使えるんだよ」
えっへん、と言わんばかりに胸を張るウサギは、その言葉を裏付けるように腰に2丁の短銃を吊し、弾の並んだガンベルトを巻き付け、体の周りにふわふわと浮遊する銀色の球体が人目を引く。
しかしその服装は渋めのピンクと黒のひらひらしたミニスカートで、何故か自分と大して変わらない大きさのウサギのぬいぐるみを背負っているところを見るとどうやら女の子らしかった。
「そちらの方は?」
カサンドラに声をかけられ、最後に残った人間の戦士が口を開くが、
「……俺はヴァルド」
その一言だけでまた口を閉ざしてしまった。
黒い瞳にやや長めの黒い髪を後ろで一つに結わえ、黒い鎧に黒い大剣を帯び、足元まで届く黒い長いマント、とにかく全身黒ずくめで、4人の中ではただ1人だけ男性である。年の頃はカサンドラと同じくらい、つまり二十代後半ぐらいか。
「それで?」
サフィールがそう促しても、
「それ以外に何か必要か?」
素気ない言葉だけが返され、サフィールもそれ以上追求しようとはしなかった。
しかし、同じぐらいの技量の者同士でパーティーに配属されたようなので、面識はなくてもお互いその名前と冒険談の一つや二つは耳にした事がある。
「無双の槍」カサンドラと言えばザイアの神官戦士の中でも目立つ存在で、「鉄壁」の竜人ドーラと共に邪教の教団支部を壊滅させたとか、何故か自分と同じようなウサギのぬいぐるみを背負っているウサギの銃使いが大きな隊商に全く損害を出す事なく蛮族の襲撃を退けたとかそんな話だ。
「じゃあ、自己紹介も済んだ事だしお買い物行きましょうか??」
「そうですね…少し急がないと」
出立までそれほど多くの時間が残されている訳でもない。これが最後の準備だと思うと悩むところではあるが、結局当初の予定通りサフィールが簡単にポーションの類を買い足しただけで、再び遠征軍に合流した一行はそのまま街を後にした。

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