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2011年9月19日月曜日

剣の剣士団・5

次は商館に回ってみる事にする。
商業で栄えていた都だけの事はあって、街中には大規模な物からこじんまりした物まで幾つもの様々な商館があるようだが、ここはそのうちの一つだ。
入り口の扉は閉まっていたが、鍵はかかっておらず、簡単に開いた。間口は広く天井も高いので、カサンドラの馬を連れたまま入ってもまだ十分に余裕がある。用心しつつ館内に入って行くと、入ってすぐ広くなっているホールに、先ほど街中で見たのよりも大きくてしっかりとした武装のスケルトンが数体に、黒々と濃いもやの塊のような物がいるのが目に入った。かろうじて人型をしてはいるものの、全体の輪郭はもやに包まれて奇妙にぼやけている。



ほぼ同時にこちらに気付いたらしい大型スケルトン達が武器を構え、ガシャガシャとこちらに迫って来る。それに合わせてもやの塊もゆっくりとこちらに寄って来た。どうやらこれまた話し合いは望めそうにない。
「スケルトンはともかく…あの霧みたいなのは何!?」
「え~っとねぇ、あれはねぇ……」
ちょっと考え込んでいたウェンディーネが、
「あれはイビルヘイズっていう魔物だよ!」
と、何故か得意そうに告げる。
「普通の武器じゃ傷付かないよ、魔法の武器じゃないとダメだよ!」
自分の槍を大枚をはたいて魔法の武器にしてきて本当に良かったとカサンドラはつくづく思った。
「…それに、あれは毒煙の塊です。周囲に毒の霧を撒き散らしますね」
横からサフィールが言葉を添える。
「厄介だな……そいつを先に倒さないと」
ヴァルドがそう言いながら黒い大剣を抜き放つ。先ほどのウェンディーネの言葉にも動じないところを見ると、この大剣もカサンドラの槍と同じように魔法の武器なのだろう。
「わたしの魔法は複数に効きますから。先に撃ちますよ…皆さんまで巻き添えにしますからね」
サフィールがそう言ったかと思うと、再び歌うような複雑な呪文を唱え始める。相手が態勢を整えるより早く、先手を打って動く事が出来れば、素早い身のこなしを活かして今の自分が持てる最強の攻撃呪文を2度まで連続で叩き込む事が出来る、それこそがサフィールの奥の手であった。
呪文が完成すると同時に、杖の先から飛び出した火炎球が魔物の群全てを巻き込んで大爆発を起こす。爆発が収まったかと思った瞬間に、もう一度。
しかしそれでも、焼け焦げ、骨の一部がどこかに吹き飛んでいたりもするものの、スケルトン達はまだ動き続けている。もやの塊の方にも魔法は効いているはずだが、まだ倒すには至らないようだ。
「行くわよ、アポロニウス!」
掛け声と共にカサンドラが走り出した。ランスを構え、勢いに乗せてそのままイビルヘイズめがけて突撃をかける。ランスの切っ先は確かにそのもやの塊に沈んだが、手応えがあるのだかないのだか奇妙な感じだ。しかし、ランスが押し返されるように戻って来た時にはもやの濃さが少し薄れているようにも思える。
「まだ倒せないか……」
その様子を見ていたヴァルドが呟き、両手持ちの大剣を振りかぶって斬りかかる。一瞬、黒いその刀身が白い輝きに包まれたかと思うと、もやの塊を確実に斬り裂いた。だがそれでもイビルヘイズにとどめを刺すには至らなかったようだ。ヴァルドが軽く舌打ちして剣を引く。
「よ~し、ボクに任せて~!」
ウェンディーネが張り切って銃を構えると弾丸の一つを抜き取り魔法を込める。狙いを定めて打ち出された弾丸は空中で無数の細かな弾となって炸裂し、イビルヘイズを見事に四散させると同時にスケルトンの何体かをも砕いていった。
しかし、四方八方に弾け飛んだ魔法の弾丸はすぐ近くにいたカサンドラとヴァルドにも容赦なく降りかかった。厚い鎧さえ役には立たず、味方の攻撃で怪我を負う羽目になってしまう。
「ウサギ!後先考えろ!」
「ごめ~ん、だってボクの魔法で一番強いのってその魔法なんだもん。当てる相手選べないだけで」
「だけで、じゃない!コカトリスの嘴より凶悪だぜ全く……」
しかし、周囲にはまだ動いているスケルトンも何体か残っているので仲間同士で言い争っている場合ではない。
とはいえ、その後はたいして苦労もせずに残りのスケルトン達を倒す事が出来た。

「ひどい目に遭ったわね……」
「あぁ、全く……主に痛かったのは味方からの攻撃だが」
「だから、ごめんってばぁ!」
しかし、あの場でイビルヘイズを倒す事が出来なければもっと深刻な被害を出していたかもしれない。それが分かっていたから、ヴァルドもカサンドラもいつまでもウェンディーネを責めはしなかった。
「怪我を治しておいた方が…いいわよね、やっぱり」
言いながらもカサンドラはしばし悩んだ。ヴァルドも自分も、それなりの怪我を負ってはいるものの、普通に動けないほどではない。怪我を治すためには魔法力を消費する。この先何があるか分からないため、なるべくなら魔法力は温存しておきたい。正直なところ自分の魔法力はそう大きくはないのだ。しかし次に戦いになった時の事を考えると、怪我を治しておかなければ不安なのもまた事実なのだった。ヴァルドもしばらく考え込んでいるようだ。
やはり、怪我は今のうちに治しておくべきだ。悩んだ末カサンドラがそう結論付け、口を開きかけた時。
ヴァルドが黒い服の中から聖印を掴み出し、低く呪文を唱えた。かざした手に白く柔らかな光が生まれ、2人の傷と痛みがみるみる消えてゆく。
「あ、ありがとう……」
「あぁ」
驚きながら礼の言葉を口にしたカサンドラに短くうなずいただけで、ヴァルドはまた聖印を鎧の下にしまい込んでしまった。
(……この人は……)
今のは、カサンドラにはまだ扱えない上級の治癒魔法だ。それも、2人に同時にかけられた。ちらりと見えた聖印は銀の翼を象った物だったと思う。つい今しがたの戦いで、ヴァルドの剣が敵に斬りつける瞬間に魔力を帯びたのを目の当たりにしたから、何らかの魔法が扱えるのだろうとは思っていたが、自分と同じ神聖魔法の使い手だとは思ってもみなかった。しかも、信仰する神は違えど、自分よりも神聖魔法の使い手としての力は上のようだ。その事実を、カサンドラは謙虚に受け止めた。
(私も、まだまだ修行が足りないという事ですね……)
ヴァルドの方はそんなカサンドラの心境など知るはずもなく、少し離れた場所で何やら騒々しい音を立てているウェンディーネに声をかけに行った。
「……何をしてるんだ?」
ウェンディーネは動かなくなったスケルトン達をひっくり返してはその鎧や武器をしげしげと眺めているところだった。
「んとね~、三剣士の剣とか鎧とかを探してるんだよ。伝説のミツルギのブグっていうやつ?でもこれは違うみたい~」
あっさりと言って、ウェンディーネは骨から手を放し、残念そうに戻って来る。
「三剣の武具?探してどうする?」
「おんなじ物を作るんだよ!」
訝しそうなヴァルドに、ウェンディーネは胸を張って得意そうに告げた。
「ボクは錬金術師で、自分で武器や防具も作れるからね!見つけて持って帰って調べてみて、おんなじかもっといい物を作るんだ!」
その言葉に嘘はなく、ウェンディーネは学者であると同時に錬金術師で、武器や鎧職人の技も実地に学んだ事がある。ただ、同じ物を作ったからと言って当然自分では使えないし、売り払って儲けようという気もない。単に純粋な好奇心だけなのである。
その態度に邪気がない事は分かったが、それでもヴァルドは言いようのない怒りが沸々と湧いてくるのを感じた。
「……ウサギ」
怒鳴りつけたくなるのを極力抑えて言葉を継ぐ。
「言ったはずだ。遊びに来ているのなら、帰れ」
「ボク別に遊びに来てるんじゃないってば!ケンキュウのためだもん!」
ヴァルドの様子にも注意を払う事なく即座に言い返して来るウェンディーネ。
「まあまあ、お二人とも落ち着いてください~」
一触即発の状況に、相変わらずのんびりとした口調でサフィールが割って入る。
「目的はそれぞれかもしれませんけど、今はケンカしてる場合じゃないですから~。この子の魔法は戦力になりますし」
サフィールになだめられ、2人ともそれ以上何か言おうとはしなかった。
サフィールにしてみれば、実は自分の立場はウェンディーネに近いのだ。軽薄に口にしてわざわざ味方の猜疑心や不信感を買うような真似をしようとは思わないが、この近くに住んでいた訳ではないサフィールには剣の戦士団に対する思い入れなど全くない。今回の遠征に参加した目的はもっと別の物なのだった。
「ともかく、戦いも落ち着いた事ですし、何かあるか探してみましょうか」
サフィールがそう言って早速辺りの探索を始める。
しばらくすると役に立ちそうな宝物が幾つかしまい込んであるのを見つけ出したが、それ以上特に変わった物は発見出来なかった。

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