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2011年9月19日月曜日

剣の戦士団・8

「さあ、じゃあ封印を解きに行くわよ」
カサンドラが気を取り直して決然と言うのを聞いた瞬間、サフィールはハッとした。
封印を解く事自体に異論はない。しかし、サフィールとしてはその前に先ほど聞いたトレーダーズギルドを訪れなければならないのだ。封印を解いてからは、幽霊達は街中に存在出来ない。つまり、ひとたび封印を解いてしまったら、サフィールの求める「無限の魔法力の秘密」は永遠に失われる。
「ちょっと待ってください」
慌ててカサンドラを止めるサフィールを皆が不思議そうに見返す。



「封印がどんな物かよく分からないので、もう少し街中で情報を集めませんか?」
いつもより早口のサフィールの唐突な提案に、皆一瞬考えたようだった。
「確かに…何があるか分からずに踏み込むのは危険かもしれないな」
「でも、行ってみなきゃ何があるか分かんないよぉ?」
ヴァルドとウェンディーネの答えを聞いて、カサンドラもどうしたものか考えたが、
「考えてても何があるかは分からないわ。私達の目的は封印を解く事なんだから、真っ直ぐ塔に向かうべきじゃない?」
カサンドラとしては、目的がはっきりしている以上、早く封印を解きたい気持ちでいっぱいなのだ。
「でも、今酒場で聞いて来たんですよ。街の真ん中にはトレーダーズギルドっていうこの街の中心だった場所があるって。そこに行けばもっと詳しい話が聞けると思います」
しばらく、このまま塔に行こうというカサンドラと、その前にトレーダーズギルドを回ろうというサフィールの意見は真っ向から対立していた。
「結局どーするのぉ?」
ウェンディーネが2人を交互に見上げながらたずねた瞬間、
「早く塔に行くべきよ」
「まずはギルドを先に」
と、全く逆の答えが同時に返って来る。
どちらも譲らない2人のやりとりを聞きながら、ヴァルドは頭上を見上げた。太陽はまだ高いが、頭の真上からは傾き始めている。それぞれの場所に何があるかは行ってみなければ分からないが、夜までに塔とトレーダーズギルド、あるいは塔を2つまでなら、回る事は多分可能だろう。塔は全て街の外壁沿いの離れた場所にあるので、3つの塔全部を回るのはそもそも時間的に無理がある。
封印を解くといっても、それにどれだけの時間がかかるのかは行ってみなければ分からない。そして、一つでも解けば良いものなのか、あるいは一つずつ順番に解いてゆくのが良いのか、もしかしたら3つ全てを同時に解かなければならないのか…そういった事も、行ってみなければおそらく分からない。
「とりあえず両方行ってみればいいんじゃないか?」
いつまで話していても平行線のようなので、2人に向かってそう提案する。
塔に行ってその場ですぐ封印が解ければそれで良し、何か問題があるようならその時戻って来て情報を集める、という手もあるが、ここは街の中心からほど近い。つまり、トレーダーズギルドはもう目と鼻の先だ。そちらの様子を見に行ってから塔に向かっても遅くはないだろう。
最終的にこの場はカサンドラが折れて、4人はまずトレーダーズギルドに行ってみる事にした。

ほどなく街の中央広場に着いた。枯れた噴水の向こう側に石造りの重厚な建物が見える。決して華美ではないが見る者に風格を感じさせる建物だ。
周囲を警戒しつつ中へ入るが、ここには特に動くものの姿は見当たらない。
がらんとしたエントランスホールを抜け、空の部屋を横目に見ながら奥へと進んでゆくと、やがて広い会議室のような部屋に行き当たった。
どっしりとした大きな円卓の周りに、空の椅子が幾つも並んでいる。そして、一番奥に一つだけある肘掛けの付いた議長席に、ぽつんと一人だけ座っている幽霊の姿があった。
深緑色の長いローブをまとい、灰色の髪に髭を伸ばした壮年の幽霊はぼんやりと虚空を見つめて座っていたが、4人が近付いて来るのに気付くと、緑灰色の瞳が眼光鋭くこちらを見据えてきた。
「お前達は、何者だ?」
落ち着いた声ではあったが、厳しい誰何の声に、立ち止まった4人の中からカサンドラが一歩進み出る。
「私達は、隣街からやって来ました。あなた方を解放したいと思っています」
その言葉に、ほう、と値踏みするように改めて4人を眺める幽霊に、
「あなたが、剣の戦士団のザードさんですね?」
後ろにいたサフィールが声をかける。
「そうだ。私の事を、ご存知か」
「ええ、お噂は伺っております」
うなずくザードの幽霊に、控えめに答えたサフィールはそれ以上何か言おうとはしなかった。
ほんの一瞬、奇妙な沈黙が流れたが、
「私達は、酒場にいた人達からこの街の守りの剣が封印されているという話を聞きました。その封印を解いてあなた方を解放するつもりです」
と、再びカサンドラが説明を加えた。
「戦士団の働きで、この街の人達は皆、無事に逃げる事が出来た……もう、あなた達がこの街に縛られる理由はないんだ」
ヴァルドがゆっくりと諭すように言葉を添える。
それを聞いて、ザードはふむ、とうなずいたものの、しばらく目を閉じ、何事か考えているようだった。
「剣の封印を解く、か……」
ややあって目を開けたザードは独り言のようにつぶやき、
「それはおそらく、かなり難しいだろう」
と、きっぱり言って4人をまっすぐに見返した。
「何故ですか?」
当然の疑問をそのままぶつけるカサンドラに、
「剣の封印は、私の3人の上官達がそれぞれ守っているからだ」
と、ザードが答えた。その答えに、4人は思わず顔を見合わせる。
「……うわ~、やっぱり?」
「そうね、やっぱり……」
ウェンディーネの言葉に、カサンドラが力なくうなずいた。
封印が3つ、という時点で何となく嫌な予感はしていたが、それが見事に的中である。的中しても全く嬉しくはない。今の自分達の実力で、あの伝説の戦士達と渡り合えるとは到底思えないからだ。
「その方々にも話をして分かってもらう訳にはいかないんですか?」
サフィールがザードに向かって問いかける。
「それも、難しいな」
ザードはそう言って顔を曇らせた。
元々、剣の封印は低級の妖魔達によるものだったが、死者となってしまった戦士団の者達はもはや封印を解く事も、剣に触れる事すらも出来なくなっていた。そこで剣そのものだけでも守ろうと、3人の旗頭達がそれぞれの塔に別れたという事らしい。
「だが、長年に渡って外界と接する事もなく封印を守り続けた彼らには、もはや“この場所を守る”という事しか分からなくなってしまっている。近付く者があれば、戦士団の仲間達であろうと、例えこの私であろうと、容赦なく排除しようとするだろう」
ザードの話を聞いて、サフィールが溜め息をついた。
「……話をする余地はないという事ですね」

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