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2011年9月19日月曜日

剣の戦士団・11

「そうすると、問題になるのは……どの塔に向かうか、という事ですけれど……」
サフィールの言葉に、皆がうなずくが、
「どこでもおんなじじゃないの?」
と、ウェンディーネだけは相変わらず気楽そうだ。
「さっき、どこに誰がいるか聞いてたじゃないですか」
「うん、聞いたよ~?でも分かんないんだもん、後は運次第って事でしょ~?」
「分からないからこそ、慎重に選ぶ必要があるんですよ……」
状況が分かっているのだか分かっていないのだか、能天気なウェンディーネだが、その意見にも一理ある。考えようにもその判断材料となる情報が何もないからだ。仮に選べるとしても、誰とも戦いたくはないという事に変わりはない。
4人は先ほど来た道をそのまま更に先に進み、街の奥にある北の塔を目指す事にした。



「……私、不思議なのだけれど」
大通りをたどりながら、カサンドラがヴァルドに話しかける。
「街の人はもう皆ここにはいないのに、何故、皆この場所に固執するのかしら?」
その問いに、ヴァルドはちょっと面食らった顔をしたが、
「それは、この街を守る、という強い意識があったからじゃないか?」
と、さして悩みもせず答えた。
「だから、それが不思議だったのよ。街にまだ何かがあるからいつまでもこの場所に縛られているんじゃないかって。でも、そういう訳じゃなさそうだものね」
「……そうみたいだな」
カサンドラの言葉に、ヴァルドもうなずく。
「街は、形じゃないわ。人がいれば、そこが新しい街になるんじゃないの?例えそこが、今まで住んでいた場所とは違うとしても」
カサンドラの言い分も分からない事はない。だがヴァルドとしては、戦士団の意向を汲むしかない。
「皆が守ろうとしたのは、この街そのものだ。無論、人の命は一番大事だが。街を離れれば変わってしまう事だってあるだろう?」
「変わらないものなんてないわ。街そのものって、やっぱり人そのものって事でしょう?」
その点については意見の一致を見られないまま、目指す塔が近付いて来る。やがて、石造りの塔の大きな木の扉が目の前に見えてきた。

「さあ、いよいよですね」
サフィールが慎重に扉に近付いて行き、中の様子を確認しようとするが、中からは何の物音も気配も伝わっては来ない。だが、死者達は普通の生物とは違うから、これだけで判断するのは早急というものだ。
「……頼んだぞ」
ヴァルドが静かに剣を抜き、馬上のカサンドラをじっと見つめる。
「ええ、任せておいて」
カサンドラは愛馬の首筋を軽く叩いてやりながらヴァルドにしっかりとうなずいた。
「今回は、ちゃんと援護するからね~」
口調こそは軽いが、ウェンディーネもいつになく真剣な態度で銃の様子を確認している。
サフィールは一度深呼吸してから、そっと扉に手をかけた。この戦いで先手を取る事は何よりも重要だ。相手側に先に自分達の間合いに踏み込んで来られたら、いくらカサンドラといえどもその囲みを突破する事は相当に難しいからだ。そして、先制攻撃を仕掛けられるかどうかは、全て自分の動き一つにかかっている。身のこなしには自信があるつもりだが、緊張のせいか身体がこわばりそうだ。
「……行きますよ」
振り向かずに仲間達に声をかけ、一拍置いてから一気に扉を押し開ける。

扉から少し傾きかけた午後の光が塔の中へと強く差し込む。外の明るさと中の薄暗さの差に目が慣れるよりも先に、ガシャガシャと金属の触れ合う音を耳が捕らえた。
エルフは暗闇でも夜目が利く。ざっと塔の中を見渡したサフィールは、素早く相手の数と位置とを特定した。商館で見た、大型の武器と鎧で武装したスケルトンが、左右に2体ずつ。
そして、真正面には、同じ大型スケルトンを2体引き連れた、やはり骨だけとなった戦士の姿があった。目の醒めるような深い赤の鎧に、波打つ焔を模した真紅の長剣、焔の文様の大型の盾。小柄ながらいかにもがっしりと骨太なのが見ただけで分かった。
~第一の剣、真紅の鎧に真紅の剣、焔を纏い門を護りしは、赤の戦士~
(……よりによって、ドワーフとは思いませんでしたね……いえ、詩を聴いた時に気付くべきだったのかも……)
心の中で毒づきながら、サフィールは迷う事なく呪文の詠唱を始める。勿論、確実に全ての敵を巻き込める爆炎の魔法だ。雑念を払って魔法を完成させ、左右それぞれに火球を一つずつ投げつける。
それは狙い通りスケルトン達を焼け焦がし、赤の戦士をも確実に捉えた。だが、スケルトン達はともかく、赤の戦士には焦げ跡一つ見られない。
(未だ生前の能力を保っているなんて……)
サフィールは少なからず驚いた。ドワーフに炎が効かないのは常識だ。炎の加護を受けた種族であるから、炎によって傷つく事はない。だが、死して骨となってしまえばドワーフだろうと人間だろうと変わりはないと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
炎ではなく稲妻の魔法にすべきだっただろうかとも思ったが、元より隊長格を倒せるとは思っていない。それよりもカサンドラの道を空けるため周囲の雑魚を片付けるのが自分の目的なのだから、結果的にこの選択は間違ってはいないはずだ。
実際、間髪を入れずウェンディーネがどこか楽しそうに、焼け焦げたスケルトン達の群に躍り込み、魔法の弾丸を撃ち込んでは、次々にとどめを刺していっている。
その隙を見逃す事なく、
「一気に行くわよ!」
掛け声と同時に鞭を入れ、カサンドラが猛然と走り出した。
扉から見て正面、赤の戦士の立ちはだかるその奥に、階段があるのは塔に入ってすぐに確認済みだ。そこからは螺旋階段がぐるりと塔の内壁に沿って上へと続いている。それほど階段に幅はないので危険な芸当ではあるが、アポロニウスと息を合わせればそのまま踏み外さず駆け上る事が出来るはずだ。
ヴァルドがすぐ後に続いて走ってくる足音が聞こえた。進路を塞ぐ敵がいるのも構わず、スケルトン達を蹴散らしながら止まる事なく前だけを見て一息に駆け抜ける。
ヴァルドの方はカサンドラとは違い、敵の間合いに踏み込んだところで立ちどまらざるを得なかったが、ここで相手を引きつけ、足止めするのが自分の役割なのでそれはそれで予定通りだ。
あっという間に階段の上り口まで行き着いたカサンドラは、そこで念のため一応後ろを確認しておこうと馬を止め、上体だけひねって振り返った。
そして、思わず目を見張った。
振り向いたカサンドラの目に飛び込んできた光景、それはヴァルドが赤の戦士と対峙した瞬間だった。
ヴァルドが手にしている黒い大剣の代わりに、赤の戦士目掛けて襲いかかったのは同じように黒く光る、だが見るからに毒々しい棘を持つサソリの尻尾。赤の戦士に身をかわされ、大きく弧を描いて空を切ったそれは、ヴァルド自身の持つ尻尾に違いなかった。
(……そういう、事だったの)
心の中でヴァルドに語りかけながら、だがカサンドラは前に向き直り、騎乗したまま階段を駆け上り始めた。
あれが、ザードの言っていたヴァルドの本当の姿なのだろう。おそらく今、死を賭してこの戦いに挑むヴァルドが、自分達に見せてくれた本来の姿。
その信頼に報いるためには、今自分の出来る事を精一杯するしかない。つまり、本来の目的を果たす事を。
(すぐに封印を解いて戻るから。それまで、死なないで待っててよ……)
気は焦るが、ここで足元を踏み外しでもしたら一巻の終わりだ。細心の注意を払い、祈りを乗せて、カサンドラはどこまでも続くかに思える階段を猛スピードで駆け続けた。

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