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2013年2月24日日曜日

開かない箱・7

しかし、それに続くウェンディーネの言葉も、骸骨達の反応も予想外のものだった。

「ねーねー、遊びに来てあげたよー!」

「おぉそうかそうか、ちょうど退屈しとったところじゃわい!」

赤い鎧を着込んだ骨太の骸骨が、飛び付いて来たウェンディーネを抱え上げ、ひょいっと頭上まで持ち上げる。

「あら、カサンドラ。珍しいわね」

「御無沙汰致しております」

茶を飲まずにいた、白銀の鎧を纏った細身の骸骨が小首をかしげ、カサンドラの方は丁寧にそう答えてきっちりと頭を下げた。

「新顔か」

もう一人、黒い鎧を着けた骸骨は一同をぐるりと見渡し、何の感慨もなさそうに呟くと、再び何事もなかったかのようにその場に腰を下ろし、がぶりと茶を飲む。

開かない箱・6

「で、あんた達は何の用があって来たの?」
軽い調子のドーラの問いに、サフィールが4人の方を振り返る。

「実は、この方々を塔へお連れしたいんですね。」
「魔術師ザードに関わる調査をしている冒険者の方々なのですが……」

「あー、確かにどう見ても冒険者だねぇ」
うなずいたドーラは改めて4人をぐるりと眺め回した。
「ま、あんた達が連れて来るなら大丈夫でしょ、だったら……」
そしてそうあっさりと言いかけたが、その言葉が終わるよりも早く、

「ちょっと待って、部外者を連れて行くってどういう事!?」

またも厳しい声が割って入った。声の主は、栗毛の馬の手綱を衛兵に預けるのもそこそこに、こちらへ向かって小走りにやって来る。ドーラに負けないほどしっかりと鎧を着込み、燃えるような赤い髪を短く切った大柄な人間の女性だった。

開かない箱・5

大通りを進んで行くと、踊る骸骨亭というのはすぐに見つかった。看板と共に小さな骸骨の模型が吊るされており、風に吹かれてカラカラと音を立てているのが意外と楽しそうに見える。
遅い昼食を取っている客でそこそこ混雑しているやや薄暗い店内に入った4人は、迷わず酒場の主人のいるカウンターに向かって行った。

「すみません、人を探しております」
「サフィールさんという方が、こちらによくいらしていると伺って来たのですが……」

「ああ、彼女なら、ほらそこにいるよ」

シグルーンに答え、主人が指したテーブルでは、白い髪を真っ直ぐに伸ばし、薄い青のローブを纏った華奢なエルフの女性が、全体に白い毛並だがところどころ黒に近い茶の混じった小柄なタビットと向かい合ってお茶を飲んでいた。

開かない箱・4

「さあ、どうしようか?」

帰って行くライを見送り、4人はまた箱を囲んで考えあぐねていた。
「振り出しに戻ったねー」
「そもそも何にも進んでないぞ」
ディルとラッシュがそんな会話をしているが、ここでこうして箱を眺めて悩んでいても埒があかないのは事実である。

「もう一度、学院で話を聞いてみるのはどうでしょう?」
シグルーンがマリウスに問いかけるような眼差しを向ける。
「長老方も、今の先生のように、今なら本当の事を話して下さるんじゃないかしら?」
「うん、実は今、同じ事を考えていたんだ」
マリウスも迷う事なくうなずく。

箱そのものから読み取れる事がない以上、手がかりは今のところずっと箱が保管されていた学院にしかないだろう。4人は箱を携え、学院を訪ねてみる事にした。本来、外部の者は入れないがマリウスが一緒なら問題ないはずだ。

開かない箱・3

「さて、どうしたものかな」
「学院で思いつく限りの事は試してみた後ですものね」
腕組みをしたラッシュとシグルーンが箱を見つめる横で、
「とりあえず思いついた事試してみればいいんじゃないの?最悪、箱が壊れても中身さえ無事ならいいって事でしょ?」
と、ディルだけは相変わらず気楽そうだ。

しかし思いつく事と言ってもそうそうすぐに良い案が出てくるものでもない。
皆が箱を前に考え込んでいると、またもや扉の開く音が聞こえた。ほぼ全員が同時に振り返る。


開かない箱・2

「なるほど……」

キャナルの言葉にマリウスはすぐ合点がいった。確かに、自分達も思いつく限りの手段を講じたが未だ解決出来ていない問題なのだ。冒険者ならば全く別の、思いもよらない手段があるかもしれない。

「僕達にも分かるように説明してよねー」
「見てもらった方が早いわね。これが問題の箱よ」
口をとがらせたディルの目の前に、キャナルが一つの小さな箱を取り出す。

それは両の手の平に乗るぐらいの小さな箱だった。
上部に紋章のレリーフが施されている他は特に飾りもなく、全体が光沢のある黒っぽい金属で出来ていて、継ぎ目一つ見当たらない。つまり、蓋らしき物も特にないのだ。

「どうやって開けるんだ?」
当然のラッシュの疑問に、キャナルは苛々と手を振って答える。
「だから、それが問題なのよ。どうやっても開かないの」

開かない箱・1

復興の進むロンダルの街は今日も活気と喧騒に満ちている。
少し前まではそれを半ば他人事のように学院の高い窓から見下ろしていたものだが、自分がその中に身を置いているのは未だに不思議な気がする。
ロンダルというのは、その昔蛮族との戦で滅び、一度は放棄された街だが、およそ1年ほど前から復興の手が入り、人も物も戻ってきつつあるところだった。

「学院」も拠点を隣街ローファに移していたのだが、このほどロンダルに戻って来た施設のひとつだ。
魔術の研究機関である学院には様々な魔術の使い手が教師、あるいは学生という立場で在籍している。

マリウスは学院の研究生だった。
いや、正確に言えば今も籍は置いている。この春学院の基礎・応用課程を修了し、指導者となる道もあったが、研究生として更に踏み込んだ学習を続ける事にしたのだ。しかし理想の高いマリウスは自らの研究に行き詰まりを感じ、実地での研修を積むため冒険者として活動する事を決めた。