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2015年1月13日火曜日

ハロウィン・ラプソディ・5

滅多に見る事もないようなサイズのカボチャに近寄っていってみるが、見る限り普通のカボチャのようだ。
アリスとオルセが二人がかりでじっくりとカボチャを調べてみたが、やはりどう見ても普通のカボチャのようである。

カボチャを見ていても無駄なようだと見切りをつけたルチュは一人さっさと井戸に向かって歩き始めた。
そして井戸を覗き込もうとした途端。


突然、足元の地面が大きく波打った、かと思うと、
「待てぇーい!」
と、地の底を揺るがすような声が響き渡った。

思わず動きを止めた魔女達の目の前で、見る間に蔓が伸び上がり、巨大なカボチャを支えて持ち上がってゆく。
あっという間に魔女達の頭よりも高い位置にカボチャの頭が立ちはだかった。

「我が名はパンプ・キング!王の名にかけて、これより先には進ませぬぞ!」
見た目は普通のカボチャのままだが、堂々と名乗りを上げる巨大カボチャに、呆気に取られていた魔女達もやっと最初の驚きが収まってきた。

「つまり、カボチャの王様って事?」
「ねぇ、他のカボチャがみんなどこかへ行ってしまったのは、あなたの命令なの?」

オルセの問いかけに、巨大カボチャはうなずいてみせたようだ。
「いかにも、我が皆に避難指示を出したのだ」
「避難?何でまた?」
「何で、だと⁉︎」
ルチュの言葉にパンプキングが吠える。
「考えてもみよ!もうすぐまたあの忌まわしき祭りの日がやって来るではないか!」

「ん?それってハロウィンの事?」
「毎年毎年、祭りの度に、我が同胞達は何の罪もないのに頭をくり抜かれ、無残にも晒し首にされ……我は決めたのだ!今年こそは何が何でも同胞達を守り抜くと!」
既に相当激昂している王の決意はかなり固いらしい。

「人間どもよ、分かったら直ちに立ち去るが良い!さもないとただでは済まさぬぞ!」
言葉と共に太い蔓が空を斬って鞭のように唸りを上げる。仲間を守るためなら、戦いさえも辞さない構えのようだ。


どうしたものかと魔女達も困ってしまった。
王を名乗るカボチャを破壊する事も不可能ではないだろうが、容易ではなさそうだ。
かといって、勿論このまま帰る訳にはいかない。

「あのさー、お前ら、ほんとにそれでいいのか?」
迷った挙句、ティムがカボチャに向かって声をかける。

「祭りに使われないって事は、そのまま腐って枯れるだけって事だぞー?」
「だぞー、お前らほんとにそれで幸せかー?」
ルチュが、ティムの鳴き声を通訳したついでに、その口調を真似ておどけてみせる。

「な、なんだと…?」
虚を突かれたかのようにカボチャの王は一瞬声を失った。

「……混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵みの王よ」
今まで一言も発さずにいたアリスが重々しく巨大カボチャに向かって呼びかける。

「な、何だそれは、我の事か?……何だか格好良いな」
戸惑いながらもカボチャ王は、このアリス独特の呼び名がいたくお気に召した模様であった。

「貴様らには役目がある」
アリスは更に考えながら言葉を継いだ。
「死者達を導く灯火……唯一輝ける晴れ舞台だ」

「……灯火?晴れ舞台……だと?」
顔はないので分かりにくいが、カボチャ王は明らかにアリスの言葉に混乱して動揺を隠せずにいるようだ。

「そうだ。この死者達の祭典は、混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵み達にとって、最大の名誉となるはずだ」
「あー、まあ、他の野菜じゃ代わりにならないからねぇ」
「そうね、こればっかりはカボチャじゃないとね」
更にたたみかけるアリスに、他の二人も声を合わせる。

カボチャ王はすっかり沈黙し、考え込んでしまったようだった。

「我はずっと、同胞達が酷い目に遭わされているものだと思っていたが……それは、我らにとってこの上ない幸せだというのか……」
しばらくしてパンプキングはゆっくりとそうつぶやいた。
うなずく魔女達をもう一度見渡し、うなずき返してくる。

「分かった。我らは、我らにしか出来ぬ役目を果たそう」


納得した様子のカボチャ王と共に、皆で他のカボチャが隠れているという井戸へ向かった。
他のカボチャ達を驚かさないよう、カボチャ王も井戸に連れて入りたいところだが、このままではさすがに無理がある。


少し考えた末に、「小さくする魔法」と「軽くする魔法」をカボチャ王にかけ、一緒に連れて行く事になった。
次に猫達の魔法で暗闇を照らしつつ、空の井戸の底に降りてみると、地面の下を通路が横に伸びている。

そこを少し進むとすぐに大きな空洞に出た。
広い空洞をぎっしり埋め尽くすように、よく熟したカボチャがずらりと並び、幾つかは勝手きままにあちこちに転がっている。


皆がそこに足を踏み入れた途端、いきなり現れた人影に一斉にざわめくカボチャ達のあるものは怯え、あるものは怒り、それぞれこちらに敵意を向けてくる。
どうやら小さくなったカボチャ王をルチュが片手で持ち歩いているのがいけなかったようだ。

「皆の者、静まれーい!」
それでも王の一声でカボチャ達はすぐにおとなしくなった。

「聞け、皆の者!我らは、思い違いをしていたようであるぞ!」
頭をくり抜かれて並べられるのは屈辱ではなく名誉である事、他の野菜には出来ない役目である事、祭りを自分達の力で盛り立てる事……と、滔々とパンプキングの演説は続いた。

はじめは黙って聞いていたカボチャ達に、だんだん熱気と歓喜の声が湧き起こってくる。

「我ら、ついて行きます、王よ!」
「ジーク・パンプ!」
「ジーク・パンプ!」

大変な盛り上がりを見せるカボチャ達を安心して眺めつつも、魔女達はまた頭を悩ませていた。

これだけの量のカボチャを一体どうやって運んだものか。
井戸に入る時には転がり込めばそれで良かっただろうが、その逆にカボチャを井戸から持ち出すのはなかなかに難しい。

「……しょーがないなぁ、とっておきなんだけどな……」
ティムがぶつぶつ言いながら、猫の魔法の品物のひとつである猫バス乗車券を取り出す。
これは猫が運転する魔法のバスに迎えに来てもらい、好きな所まで乗せて行ってもらう事が出来るというとても便利なアイテムなのだ。

ただし、乗車券が足りないので全員で乗る事は出来なかった。
乗車券を切った瞬間に目の前に停車したバスに、カボチャ達を全部みっちり詰め込み、パンプキングから一番信頼されているらしいアリスが先導役に一緒に乗り込む。

そしてとりあえずは一旦農家の納屋にカボチャ達を収穫する事にした。そこからなら通常の手順で出荷出来る事だろう。


「皆の者、しばしここで待機だそうだ!」
バスから順番に降りたカボチャ達は、アリスとパンプキングの指示に従って順序良く納屋に収まっていく。

バスに乗らなかった残りの全員は再びカボチャ農家を訪れ、カボチャが無事戻ってきて納屋に並んでいる事を話した。
その様子を確認しに行くという主人について、皆でぞろぞろと納屋まで行ってみる。


「我らを作り給いし創造主が来られたぞ!」
「創造主様、万歳!」
「王様、万歳!」
「ジーク・パンプ!」

またもや一斉に騒ぎ出したカボチャ達を目の当たりにした主人は、しばらくは驚きのあまり、ぽかんと口を開けたまま言葉も出て来ない様子だった。

「おじさん、カボチャに慕われてるのね。愛情込めて育ててたんだね」
「この畑の魔力のおかげでちょっと変なカボチャになってるけど、出荷して畑を離れれば普通のカボチャに戻るから大丈夫よ、多分」
ルチュとオルセがそう言って笑いかけると、やっと主人も落ち着いたようだ。

「主。うちの店に来るはずだった混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵みだけ先にもらって帰っても良いか?」
「あ、ああ、ファリーヌさんとこか、ええと……」

アリスの言葉に主人はきょろきょろと辺りを見回していたが、
「お前達、南の一角の連中だな?この子と一緒に行くんだぞ、達者でな」
と、特別に艶の良いずっしりと重そうなカボチャを幾つか選んでくれた。

「達者も何も、全て菓子にして美味しく頂くがな」
「あ、ええっと、とにかくカボチャも見つかった事だし、急いで帰りましょう!」



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