「アリス、それ持って帰るんでしょ?あたし先に行ってカボチャ来るよって伝えて来てあげるわよ。お菓子作る準備とかもあるでしょうしね!」
ルチュがそう言うが早いか、アリスの返事も待たず箒で飛び立つ。
「だーかーらぁー、スピード上げる時は事前にぃー……!」
同乗させられているティムの声もあっと言う間に遠ざかっていった。
菓子作りの準備があるなら、アリスを先に帰らせてルチュがカボチャを運んでも良さそうなものだったが、そんな発想はそもそもなかったらしく、思い付いたら即行動のルチュらしいといえばルチュらしい。
「手伝うわよ、アリス」
オルセが苦笑しながら声をかけた。
「ふむ…そこまで一刻を争うものでもないのだが」
アリスは考え込みながら口を開く。
「それよりは、ちと寄りたいところがある。そちらの方が時間がかかりそうだしな……」
「あら、どこ行くの?」
「……個人的な買い物だ」
そう言われてしまうと、ついて行くのもはばかられるので、オルセも他に出来る事がないか考えてみた。
「あ、じゃあ私も買い物に行くわ。あの子が着られそうな着ぐるみ、探しておかないとね」
「そうか。よろしく頼む」
こうして、帰りはそれぞれバラバラに街まで戻る事になった。
街まで戻って来たオルセは、その足でおもちゃ屋に向かった。
ちょうど子供向けのハロウィン衣装なども並んでおり、すぐにイメージに合ったウサギの着ぐるみを見つける事が出来た。大きさといい色合いといい申し分なさそうだし、作りや素材も割と良いもののように見える。
「おじさん、これいくら?」
聞いてみるとそれは少し値の張るものであったが、
「いいわ、もらって行くわね」
オルセは迷う事なく即金でそれを買う事に決め、プレゼント用に包んでもらった。
荷物を抱えて帰ろうとしたオルセだったが、ふと思い付いて回れ右し、また農家に戻る。
「あー、お前達はこっちの箱に入れ。そっちのお前達はあの木箱な」
オルセが戻った時には、主人とカボチャ達は早速忙しそうに出荷の準備の真っ最中だった。
主人に声をかけ、空き家で行うハロウィンのパーティーにパンプキングを出席させてもいいかと頼んでみる。勿論構わないという返事をもらったオルセは、王本人にもその話をしておく事にした。
「おお、話の分かる娘の友人ではないか!何、パーティーとな?」
パンプキング自身も上機嫌でパーティーに来る事を承諾してくれたので、安心したオルセは今度こそ帰る事にしたのであった。
一方、自分の買い物を終えたアリスが店に戻ると、先にルチュから報告を受けたファリーヌが準備万端整えて待っていた。
「ご苦労様、アリスちゃん。カボチャ手に入れてくれたのね。さあ、これから忙しくなるわよー」
また無言のままうなずくアリスも早速調理服とエプロンを身に着け、菓子作りの準備に取りかかるのだった。
それから1週間、ハロウィン当日まで、皆はそれぞれ空いた時間を使ってパーティーの準備を進めていた。
例えばオルセとルチュはパーティーのためにチラシを作って、ナバールやファリーヌの店で配ってもらう事にした。
「えっと、誰でも歓迎、参加自由!でいいのよね?」
「それは合ってるけど……ルチュ、作るのはパーティーのお知らせで、あなたの単独ライブのお知らせじゃないわよ?」
アリスは忙しい合間を縫って、パンプキングがくり抜かれてランタンになる瞬間に立ち会ったりもしていたが、基本的には菓子作りにかかりきりだったので、空き家をパーティーのために掃除したり飾り付けたりするのも、二人と猫達で協力して頑張った。
そしていよいよハロウィン当日の夜。
皆で忙しく最後の会場の仕上げや料理の支度をしていると、農家の主人に連れられてパンプキングとお供のカボチャ達がやって来た。
きれいに中身をくり抜かれ、顔を付けられた事により、表情が豊かになって嬉しそうなのが前よりもよく分かる。
アリスが進み出て、パンプキングの頭に冠を乗せた。自分の馴染みの衣装屋でパンプキングのためにこだわり抜いて特注した冠だ。先日カボチャ農家から帰る途中、買い物に寄って頼んでおいた品である。
さすがは話の分かる娘だとパンプキングもいたくご満悦のようだった。
お供のカボチャ達を会場の飾りに加えているところへ、今度はファリーヌが大荷物を持って到着した。
カボチャをたっぷり使った焼き立てのパイやタルトは勿論、クッキーその他の焼き菓子や、お土産に配る小分けにされたキャンディーの袋までたくさん用意されており、正にお菓子の山であった。
歓声を上げる皆に、店も忙しくて大変だったのだと珍しくアリスが愚痴るが、思う存分腕を振るえたとファリーヌは満足そうである。
ピンクのウサギのぬいぐるみを抱え、オルセの用意した着ぐるみを朝からずっと着ているルセリアもとても嬉しそうだ。
開始の時刻が近付くにつれて徐々に街の人々も集まってき始めた。
隣街から来るルセリアの両親を街の門まで出迎えに行っていたルチュも戻って来た。
今日もギターを抱え歌う気満々のルチュは、ここまで来る道すがら、ルセリアの好きだった曲を両親にたずねてみたりしたらしい。
「あら、そのぬいぐるみ……なくしてしまったと思っていたけれど、ここに忘れて行ってしまっていたのね」
ウサギの着ぐるみが抱えているぬいぐるみに目を留めた両親は顔を見合わせ、ついで着ぐるみを見つめた。
ややためらってから、黙ったまま着ぐるみをぎゅっと抱きしめる。
魔女達も黙ったまま微笑んでその様子を見守っていた。
やがてパーティーが始まる。
歌に音楽、お喋りに踊り、料理にお菓子。
賑やかな一晩が楽しく過ぎていった。
「ありがとうございました。あなた方のおかげで、もう一度あの子に会えた気がするんです」
ルセリアの両親は穏やかな表情で魔女達に礼を述べ、動かないただの着ぐるみに戻った着ぐるみとぬいぐるみを大事そうに抱きかかえて帰途に着いた。
「我らは重大な役目を全うする事が出来た、悔いはない。礼を言うぞ、話の分かる娘と友人達よ」
パンプキングも笑顔を浮かべたまま、お供のカボチャ達を引き連れて農家に帰って行く。
見送る魔女達には、ほんの少し寂しい気持ちが生まれていた。
しかし、感傷に浸っていたのも束の間。
「死者の祭典が終わったからには、次は聖者の生誕祭だ。また忙しくなる」
「うむ、また他の猫達にも喧伝する事としよう」
アリスとノブナガがすっと立ち上がり、
「私もそろそろ次の試合に向けて調整しなくちゃね!」
「またトレーニング?じゃあ木陰で見守っててあげるわね」
オルセとリリアが大きく伸びをし、
「よーし、今回新しい歌も仕入れた事だし、またガンガンライブするわよー」
「来月はパンケーキとパンの耳以外のご飯増やしてくれよなー!」
この場で早速ギターを構えるルチュを牽制するティム。
「あんたら、この家の中片付ける方が先だぞ」
「ああ、うちの店も急いで模様替えしなくっちゃねー」
ナバールとファリーヌが苦笑しながら皆を見やる。
祭も終わり、魔女達と猫達もこうして日常に戻っていくのだった。
「じゃあ私、片付けの間のBGM演奏してるからね!後よろしく!」
「……何だと?そういう事なら私は休憩に備えて菓子を焼きに行くぞ」
「ちょっとふたりとも!いいからふたりでこのテーブル持って、隣の部屋に運んでちょうだい!椅子?椅子はねぇ、確か台所に……」
ー了ー
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