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2015年1月3日土曜日

ハロウィン・ラプソディ・4

空き家から出て来ると早速、ナバールの店に出向き、一番はじめに依頼を受けたルチュが代表して一部始終を説明した。

「そうか、あれはやっぱり、前あの家に住んでたルセリアちゃんだったのか……」

はじめはさすがに驚いた様子だったが、人のいいナバールはそう言って言葉を詰まらせている。

そして、隣街へ越して行った両親に宛てて手紙を書くと申し出てくれた。
幽霊となっているルセリアの事は伏せたまま、空き家でパーティーを行う許可と、もし良ければ思い出のあるその家でのパーティーに招待させてほしいという内容にするという。

妥当な内容だろうと判断した一行は、それはナバールに任せる事にした。

「そうと決まれば、パーティーの準備しなきゃね!」
「そのためにも、早くカボチャを手に入れなきゃ!」
こうしてようやく本来の目的地である八百屋へと向かう。


八百屋へ着くと早速、アリスがつかつかと店主に歩み寄っていった。

「主!混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵みはどこだ!」
「は、はぁ!?」
いきなり呪文のような言葉をまくし立てられて目を白黒させている店主の元に、
「あ、えーっと、私達、カボチャを探しに来たんです」
「ファリーヌさんのお店に、まだカボチャが届かないそうなんですよ」
オルセとルチュが慌てて通訳に入る。

「ああ、カボチャの事かぁ」
店主はうなずいたものの、またすぐに顔を曇らせてしまった。

「悪いが、カボチャはうちにもまだ入荷がないんだよ。農家さんに聞いても、なくなった、って言われるだけで、どうにも要領を得なくてねぇ…」
すっかり弱り切った店主の様子に、皆顔を見合わせる。どうやらこれ以上、ここで分かる事はなさそうだ。

「では主、混沌より現れし陽だまりのマリーゴールドたる豊穣なる大地の恵みを育みし恵みの大地はどこだ!」
「あー、はいはい、カボチャ畑だね。お嬢ちゃん達が見に行ってくれるのかい?そりゃ助かるよ、こっちも手が離せなくてねぇ」
アリスの物言いにもすぐに慣れた様子の店主からカボチャ農家の場所を聞いた一行は、すぐにそこを目指す事にした。


畑は街外れの門の外にあるらしく、歩いて行ってはだいぶ時間がかかってしまう。
そこで皆は魔女らしく箒で飛んで行く事にした。歩くよりは相当早い。

しかし、箒で空を飛ぶためにはやはりそれなりの技量が必要である。魔女の基本的な力のひとつとはいえ、 そこそこ難しいものなのだ。

アリスとルチュは、それぞれ自分の箒に猫も一緒に乗せ、地面を蹴ってふわりと宙に浮き上がった。そのままバランスを取って、街外れ目指して飛び始める。

ところがオルセは今日に限ってどうも調子が悪く、上手く空に舞い上がる事が出来ずにいた。普段、仕事でも空を飛んでいるというのに、いざという時に飛べないというのはちょっとしたショックである。

他の二人の姿はみるみるうちに遠ざかっていった。徒歩で行くのではとてもではないが追いつけそうにもない。

「置いて行かれちゃったわよ?」
リリアが冷ややかにオルセを見上げる。
「うーん、今日はどうやっても飛べそうにないわ。でもこのままじゃはぐれちゃうし……リリア、お願い!」
「もう、しょうがないわねぇ……」

手を合わせるオルセに大げさに溜息をついてみせてから、リリアは何やら鳴きながらピンクの尻尾でくるりと円を描いた。

たちまち何もない空中に黒い穴が出現する。これは猫魔法のひとつ、「ねこあな」というもので、穴をくぐった猫と魔女は、ただちに好きな場所へ移動出来るという便利なものだ。

しかしねこあなを通るのは魔女にとって恥ずかしい事とされているので、他の人に見られないように入らなければならない。
周囲に人の気配がないのを確認し、こっそりとねこあなに潜り込むオルセであった。


その頃、先を飛んでいる二人は、街の中心に差し掛かっていた。
街の中心には広場があり、その少し先に大きな時計塔が建っている。

時計塔の脇を飛んで抜けようとした魔女達の耳に、ひゅうひゅうと風を切る音に混じってぎゃあぎゃあと耳障りな鳴き声が聞こえてきた。
目をやれば、時計塔に留まっていた数羽のカラスが、明らかに気が立っている様子でこちらに向かって飛んでくる。どうやら攻撃を仕掛けてくるつもりのようだ。

カラスの爪や嘴が届く前に、アリスは空中で戦うキャットファイトを選んだ。速度を落とし、迎え討つ体勢を整える。

「我が尾の力、受けてみるがいい!」
アリスの考えを察したノブナガがいち早く箒の上で身を躍らせ応戦する。
自分の尻尾を弓と化し、魔法で出現した矢を射る事の出来る猫魔法、「尻尾の弓」だ。
魔法自体の効果に加え、ノブナガは自分でも尻尾を鍛えて強化しているので、その威力はなかなかのものである。

一方、ルチュの方はいちいちカラスなど相手にする気はさらさらなかった。迷いもせず一気に速度を上げて飛び抜ける事を選ぶ。

「スピード出す時は事前に言えよぉっ!」
あわや振り落とされそうになったティムが慌てて箒にしがみつくが、ルチュはそのまま速度を上げてカラスを振り切る事に成功した。

ノブナガの矢が見事に命中し、カラス達が怯んだ隙に、アリスもスピードを上げて牽制に入る。
気勢を削がれたカラス達を置き去りにして、何とかこの場を切り抜ける事が出来たようであった。


こうして二人がカラスをやり過ごし、街外れまでやって来ると、そこには既に到着していたオルセが待っていた。

「別の道から来たの?いつの間に追い越されたのかしら」
「さすがは熟達の競技選手、なかなかやるな」
「あー、うん、私も今着いたとこよ」
二人の言葉に苦笑いで答えるオルセ。

「それより、どうしましょうか?」
周囲には広い畑が広がっているが、一面、青々とした葉っぱが茂っているばかりだ。よく見ればあちこちに実をもいだような跡が残る蔓も目立つ。

そして少し離れた所にぽつんと一軒の家と小屋が建っているのが見えた。きっとあれがカボチャ農家なのだろう。


とりあえずカボチャ農家へ向かい、話を聞いてみる事にする。

農家の主人はほとほと困り果てた様子で、一週間ほど前の満月の夜、出荷間近のカボチャが一晩のうちに忽然となくなってしまったのだと話した。
とてもではないが一度に全部運び切れるような量ではないというのだが、原因は分からないままカボチャが全て持ち去られてしまったようだという事実に変わりはない。

しかし主人のいう事には、一番北の端にあるカボチャが一株だけ、残っているらしい。

話を聞いても謎は解けないままなので、魔女達は自分達で調査を進めるべく、もう一度畑に戻った。

「つまり、一週間前に何があったか分かればいいのよね」
そのためにどうすればいいかあれこれ考えた末に、オルセが普段から趣味で持ち歩いている小型の写真機を取り出した。写真機に魔法をかけ、問題の晩に何があったのかを撮影してみようというのだ。

一週間という時間を遡るのは少し難しい試みであったが、この畑に満ちている強い魔力と、リリアが手助けに入る事により、オルセの魔法は見事に成功した。


早速、写し出された何枚かの写真を皆で覗きこんでみる。そこにはまだきちんとカボチャが写っていた。

しかしそのカボチャは皆、蔓を切り、畑から抜け出し、一列に並んでごろごろと北の方を目指して転がっていっているのであった。
見る限り、誰かがカボチャを運んでいる訳ではなく、カボチャが自力で移動していったようだ。
何とも不可思議な光景だが、この場所には強い魔力が満ちているようだったし、ありえない話ではない。


とりあえず、写真に沿って自分達も北の方へ歩いていってみる。

すると果たして畑の一番外れには、農家で聞いた通り、一株だけカボチャが残っていた。
差し渡し1メートル以上はあろうかという、かなり巨大なカボチャだ。

そしてその向こうには、井戸があるのが見えた。


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