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2012年6月4日月曜日

呪われた屋敷・2

「依頼っていうのは、ある商会から盗まれたお金を取り戻して欲しいっていう事らしいんだけどね……」
シェーラの話を要約するとこういう事になる。

ある商会で、新しい店舗の開店資金のために用意された金が持ち逃げされた。犯人の目星はついている。
この仕事の報酬は全員で金貨6000。ただし、持ち逃げされた金を全額取り戻してくれれば、倍額の1万2000払うという。
「……悪くない話ではありますがね」バルニエの言葉に皆うなずいたが、
「1万2000かぁ……ずいぶん金払いがいいんだなぁ?」
レトが感心するとも訝るともいえない調子で声を上げる。
「1万2000あったら、魔晶石がえーっとえーっと……いっぱい買えて、ヒューレ様のご加護もたくさん!」
レトの様子も気にする事なく、エルディが目をキラキラさせながら叫んだ。
エルディは普段の武器として、太い鎖の先に一抱えはあろうかという鉄球を取り付けた巨大なモールを選んでいる。基本的には背中に担いで持ち運んでいるのだが、重さに耐えられなくなってくるとズルズルと地面に引きずって歩いている有り様。
何しろドワーフの怪力をもってしてもそのモールを振るう事が出来ない。剣神ヒューレの加護を受けた一瞬だけ、思い通りにそれを振り回す事が出来るのだ。
周囲から何を言われようと、エルディは「ヒューレ様の偉大さを周りに示すため」という名目で武器を他の物に変えようとしない。というかそもそも予備の武器すら持とうという発想がない。
実際にその加護を受けたモールが振るわれるのを見る機会は今のところほぼ100パーセント、パーティーのメンバーだけに限られているので、全く布教活動の役には立っていないのだが、それに気づかない辺りがエルディらしいと言える。
「1万2000、みんなで分けるんだからね?全部魔晶石にしちゃダメなんだよ」
アルトがエルディに釘を刺すが、聞いているのかどうかも怪しいものだ。
「ま、とにかく……」
シェーラが全員を見回しながら、まとめとばかりに切り出す。
「依頼主は大きな商会の会長さんでね…もし仕事を受けるなら、詳しい話はそちらで聞いてちょうだい」

30分後、支度を整え、シェーラに紹介状を書いてもらった4人は依頼主であるルオ商会の商館に来ていた。
ルオ商会というのは、元々このロンダルで現会長のルオが興したもので、商業の都ロンダルでも名の通っていた商会らしい。15年前の戦で拠点を隣国ローファに移し、そちらでも成功を収めていたが、今後またここロンダルに本店を戻す予定だという話だった。
バルニエ達にしてみれば、当面何の予定もなかった事だし、そういった大きな商会との繋がりが出来るのは今後の仕事のためにも喜ばしい事だ。
受付で用向きを伝えて紹介状を預け、応接室に通されてしばらく待っていると、やがて依頼主であるルオがやって来た。
灰色の髪に灰色の髭を伸ばし、そろそろ老境に差しかかろうかというルオは、痩せた長身に飄々とした雰囲気をまとった人物だった。
「お待たせしてすまない…依頼を受けてくれるっていう冒険者だね」
互いの挨拶に続き気さくな口調で切り出したルオに、
「詳しいお話を聞かせて頂けますか?」
バルニエが代表してそうたずねる。
「だいたいの話は聞いているかと思うが」
ルオはうなずいて話し始めた。
「今度新しく武具工房を開く事になってな……」
何でも、伝説の三剣の武具を再現すると意気込んでいる錬金術師がいるので、ルオがその後見人となり工房を開く事になったのだと言う。
なかなか面白い物が出来そうだと思ったので出資する事にしたんだが……その準備資金が全額、持ち逃げされてしまってな」
「ちょっと確認しておきたいんだけど。全額、取り戻したら報酬は倍で間違いないんですよね?」
レトが横から口を挟むが、ルオは気にするふうもなく鷹揚にうなずいた。
「あぁ、確かに倍額払おう。全額きっちり持ち帰って来てくれたらな」
「いったい全部でいくらあったんだい?」
それは全員の気になるところではあったが、
「全部で20万だ」
あっさりと答えたルオに対し、全員が一瞬言葉を失った。相当な大金だ。
「……そりゃ、20万返って来たら1万2000払ってもいいよなぁ……」
「ですねぇ」
思わず独りごちるレトに、すかさずうなずくバルニエ。
「20万あったら、魔晶石がえーっとえーっと……」
「……20万、僕らがもらえる訳じゃないんだからね?」
大金とみるととりあえず魔晶石換算しようとするエルディに、遠慮がちに突っ込むアルト。
「……で、その犯人の目星はついてらっしゃると、そういうお話でしたね」
気を取り直してバルニエが話を本筋に戻す。
「うん、ロンダルに戻って来るにあたり、新しい使用人を何人か雇い入れたんだが、そのうちの4人が姿をくらましていてな」
ルオが言うには、それは皆、街の外から来た人間だったと言う。
「どんな奴らだったんだい?」
レトの言葉にルオは少し考えたが、
「どんなと言われても、まあ普通の人間だよ。外見は、そうだなぁ……」
ルオは思い出せる範囲で年格好、人相などを説明してくれた。
「では、後は我々にお任せください」
バルニエの言葉を合図に、4人は口々に挨拶してルオの商館を後にした。

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