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2012年6月4日月曜日

呪われた屋敷・7

レトの後ろからひょいっと夜目のきくエルディが部屋を覗き込んだかと思うと、
「向こうにも足跡があるよー」
「……何だって?」
目をこらしてみると、やはり人型の足跡が部屋を横切って付いている。向こうにも別の出入り口があるらしかった。
しかしどちらにしてもはじめに見つけた足跡通りを辿る事に決め、右手へと戻った4人は足跡通りに途中の扉は無視して正面の扉へと向かった。
歩きながらアルトはふと後ろが気になって振り返ってみた。自分が臆病なのは重々承知している。それでも後ろに何かいるような気がして仕方がないのだ。背後を守るオークの向こうにいるのはやはり鼠達だけだったが、その数は少し多いように思える。ざっと見てはじめの部屋にいたのと廊下にいたのを合わせたぐらいか。だが正確な数を数えるより前に鼠と目が合ってしまったので、慌てて前に向き直った。
「ねぇ、何かネズミ増えてない?」
「んー、そう?」
声をかけられたエルディはあまり気にしている風もない。
「まあ、ただのネズミなのは分かったし大丈夫でしょ」
あっさり言うエルディにそれ以上何か言うとまたからかわれそうなので、アルトは気になりつつも後ろは見ない事にした。

正面の扉を抜けると、そこはかなりの広さのある空間だった。天井は高く吹き抜けになっていて、左奥に上へと続く階段とバルコニーのように張り出した2階部分が見えている。
右側には大きな2枚合わせの扉が見えた。どうやらそちらが正面玄関のようで、ここは大きなホールのようだ。あちこちに豪華な調度品がこれでもかと飾られているが、その陰や隙間にもたくさんの鼠の姿が見え隠れしていた。
「うわー、何か高そうな物がたくさんあるねー」
「ん、ちょっとごてごてし過ぎてるけどな」
「持って帰ったら高く売れるかな?」
魔晶石欲しさに目をキラキラさせているエルディに、
「……中にある物全部呪われてるかもよ?」
「それにこの建物はザイア神殿の管轄下にありますからねぇ、持ち帰るには許可がいると思いますよ」
アルトとバルニエが釘を差している間に、レトは辿って来た足跡の行く先を調べに行った。
足跡は正面扉の前で複数の物が入り乱れ、激しく暴れ回ったような跡がある。そしてそこからは2階の階段に続く物と、左手前の隅へと続く物の二手に別れているのを発見した。左手前には小さな扉が見えている。
どうするか少し迷ったものの、1階を先に調べてしまおうという事に話がまとまり、4人は左手前の扉へと向かった。
その途中、レトが足元に小さくキラリと光る物を見つけた。
「……何だ?」
つまみ上げてみるとそれはレリーフの入った銀の指輪だった。しかし、よく見るまでもなく乾いた血がこびりつき、染みついている。
「うわ、これは……」
「やだけど、ちょっと見せて」
そうは言ったもののアルトは指輪を受け取ろうとはせず、レトがつまんだままの指輪をよくよく眺めると、
「これは信念のリングだね…魔法の品物だよ」
と、告げた。
「殺された魔法使いとやらの持ち物かもしれませんね」
「うーん、さすがにそこまではどうだか分からないけど……」
「一応、必要になるかもしれないから持って行くか?」
レトが言いながら指輪をポケットにしまい込もうとすると、
「あ、待って、じゃああたしそれ付けてくー!」
と、エルディが手を伸ばす。
「いや、付けてくって……血が付いてるぞ?」
「うん、でも魔法の効果には影響ないでしょ?」
「いや、ないだろうけど、でもなっ……」
そんな事には頓着せず、エルディはひょいっと指輪を取り上げると、
「うん、サイズもピッタリー!」
「おいおい……ほんとに大丈夫か?」
「うわ、信じらんない……」
喜ぶエルディを呆れたように見つめるレトとアルトに、
「……まあ好きにさせておきましょう、エルディですし」
バルニエが諦めたように溜め息をつき、4人は再び足跡を辿り始めた。
少し奥まった所にある簡素な木の扉を開けると、倉庫に出た。先ほど見えた、倉庫の別の出入り口のようだ。足跡は真っ直ぐ前へ続き、そして少し先でまた今いる扉へと引き返して来ている。
レトが独り部屋に入り込み、より詳細な探索を試みる間、後の3人は戸口で待っていたが、その間にもアルトはやはりどうしても後ろが気になってそーっと振り返ってみた。
途端に、無数の鼠達と目が合った。調度品や装飾品の陰にいたはずの鼠達の大部分が、少し離れた床の一つ所に集まってじっとこちらを見ている。
先ほども鼠が増えているような気がしたが、もはや気のせいではすまされない。確実に、今まで通った場所の鼠達、ほぼ全てが自分達の後をついて来ている。
思わず短く悲鳴をあげたアルトを、
「なになにっ!?」
「どうしました?」
そばにいたエルディとバルニエが同時に振り返った。
言葉すら出て来ないアルトが震える指で示す方向を見やった2人もそのままの姿勢でしばし固まる。
「…ずいぶん……いっぱいいる、ね…」
「今までの部屋にいた分が全部ついて来ているようですねぇ……」
鼠達は今のところ、こちらに何かしかけてくる気配はない。ただ一定以上の距離には寄らず、だがいなくなる訳でもなくじっとしているだけだ。
しかしこれだけの数の鼠がいるのに、それが皆揃いも揃って同じ事をしているというのはそれだけで背筋の寒くなる光景である。
「おーい、どうしたんだい?」
レトが怪訝そうな顔をして戻って来たが、3人の見ている方に目をやりそのまま絶句する。
「ともかく、早く他の部屋に行こうよぅ」
「そちらは何か見つかりましたか?」
レトはうなずき、
「床に扉があった。でも、魔法の鍵で閉ざされてる。鍵を見つけないと地下には行けないだろうな」
これ以上先へ進めないという事が分かった4人はそのまま広間を横切って戻り、2階へ向かう事にした。

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