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2012年6月3日日曜日

呪われた屋敷・1

現在復興中のロンダルの街は、一種異様な賑わいを見せていた。

ロンダルというのは、15年程前、蛮族との戦で放棄され滅びた後に街全体がアンデッドの巣窟と化しており、近付く者すらなかった街であるが、それ以前は商業の都として栄えていた街でもある。
このほど、隣国からの遠征軍の働きにより全てのアンデッドは昇天した。
そして街を復興させる試みが始まったばかりである。

幸い、ロンダルに住んでいた街人達は先の戦でもほぼ全てが無事に隣国へ逃げ延び、そのままその地に住みついた者が多かった。
そういった元ロンダルの住民で古巣へ戻って来た者もあれば、他の街からロンダル復興の噂を聞いて一旗上げる機会とばかりにやって来た者もある。
そんな、他の地からやって来た者達を受け入れるべく、急遽開店した酒場兼宿屋の片隅で、少し遅めの朝食を取りながらバルニエは今日は1日どう過ごすべきかと思案していた。
バルニエは灰色の髪とやや赤みがかった黒の瞳に、長剣と盾を持つ神官戦士である。全ての生き物には何らかの役割があるという教義の韋駄天ラトクレスのプリーストになったのは、少なからずナイトメアである自分の生きる指針を見いだしたいと思ったからであるが、未だ自分の納得出来る役割は見つかっていない。
そして今のところ人前でナイトメア独特の「異貌」を晒した事もないので、周囲からは少し色白の人間の青年だと思われている事だろう。もっとも、実はもうこの姿のまま百年以上も生きている事になる。
バルニエの向かい側では、焦げ茶色の瞳に、ピンク色の髪をポニーテールにしたドワーフのエルディがせっせと山盛りの卵料理を口に運んでいる。
そもそもこの街にやって来たのはエルディの発案なのだ。エルディは剣神ヒューレという小神のプリーストなのだが、昔の蛮族との戦の際、我が身を盾としてロンダルの街人全員を無事に逃がし全滅したという「剣の戦士団」の伝説を聞いて、「ヒューレ様の教えに通じるものがある!」と言い出し、バルニエや他の仲間も引っ張ってこの街までやって来たのである。
しかし、街には来たものの、その先どうするかは全く何も考えていなかったらしい。エルディらしいと言えばエルディらしい、何とも突発的な行動だ。
それなりに何度か同じパーティーで仕事をこなして来た仲間なのでもう慣れたつもりではあるが、時折彼女を見ていると実はドワーフではなくて、ものすごく怪力のグラスランナーなのではと疑いたくなるバルニエであった。
エルディの隣では、ふわふわした薄茶色の毛並みに左耳の先だけが白く、右目は金色、左目は銀色、繊細な刺繍の施された立派なコートを羽織ったタビット、アルトがちまちまと野菜と豆のサラダをつついていた。
そしてアルトの椅子の後ろには、背後を守るように木で出来たゴーレムのオークが立っている。アルト自身は複数の魔術を扱う優秀なウィザードにして学者なのだが、とても怖がりでいつも自分の魔術で作り出したこのオークを連れ歩いている。何かあるとすぐその陰に隠れてしまうのだ。まだ子供なので仕方がないのかもしれないが、今までバルニエが出会ったタビットの中でもトップクラスの臆病さだ。何故わざわざ冒険者などという酔狂な真似をしているのか理解に苦しむ。
アルトの向かい側では、既にバルニエの倍の量はあろうかという朝食をペロリと平らげたレトがのんびりと食後の紅茶を飲んでいた。彼はいくら食べても太らない体質らしく、しばしばその細い体のどこにこれだけの食料が収まってしまうのだろうかと不思議でならない。
レトは薄い金の短髪に青い瞳、すらりとした細身の人間の男性だ。男性、といってもその印象はまだまだ少年の域を出たばかりといったところで、その口調や態度から軽い感じを受ける事は否めない。
しかし実際には長距離を正確に撃ち抜く長銃使いであり、その魔動機術を斥候の技にも活かす頭脳派のスカウトでもあり、見た目に反して慎重で思慮深い性格をしている。
「今日はどうするんだい?」
そのレトがカップを手にしたまま、誰にともなく問いを投げかける。
「そうですねぇ……」
無心に卵料理に向き合っているエルディと、ちらっとレトの方へ目を上げたアルトの様子を見ながらバルニエはそう答えた。
彼としては、まだ到着して間もない街中の地理や状況を把握するために散策してみるのが良いのではないかと考えている。街中を回ってロンダルに関しての話を聞き、可能なら冒険者の手の入りような仕事を拾ってくるのも良いかもしれない。
バルニエがそれを皆に話そうと口を開きかけた矢先。
「ねぇねぇ、あんた達」
唐突に、頭の上から明るく快活な女性の声が降ってきた。
「あんた達にちょうど良さそうな仕事の依頼が来てるんだけど、ちょっと話を聞いてくれない?」
声の主は、この店の主であるシェーラだった。その美貌と華やかな雰囲気は一際人目を引くが、店を切り盛りし、冒険者達と街人の仲介などもしている姉御肌の女性である。
どのみち決まった予定のないバルニエ達は、二つ返事で彼女の話を聞いてみる事にした。

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