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2012年6月4日月曜日

呪われた屋敷・9

「うわ、いっぱいあるし……」
「これ全部そうなの?」
魔法反応はかなりの数だった。1階、2階には点在していたり固まっていたりするが、どうやら飾ってある美術品や調度品も魔力の込められた物が多いようだ。
そして地下にも一カ所、5、6個ばかりの魔法反応が集中している事が分かった。
「…ん?何だこりゃ?」
レトはすぐ異変に気付いた。2階にある魔法反応の一つだけが、動いているのである。どこかへ向かっている訳ではなく、一定の範囲をふらふらと不規則に動き回っているようだ。場所としては先ほど自分達が入って来た倉庫の上にあたるので一番奥の部屋という事になる。
「ねぇ、これ何か変だよね?」
「ええ、いかにも」
眺めている間に、他の仲間達もその異変に気付いたらしい。
そして、振り返って見れば、眺めている間に早くも階下には小さな頭がずらっと並んだ黒い帯が出来始めている。

「よし、行ってみようぜ」
「行きましょうか」
迷う余地はない。4人は真っ直ぐにその動く魔法反応に向かった。廊下の途中にも幾つかドアが並んでいるが、勿論全て目もくれずに通り過ぎる。
すぐに目指す部屋の扉の前に着いた。レトが手早く扉を調べ、異変がない事を確認してから引き開ける。
そこは屋敷の主の執務室のようだった。奥の方にどっしりとした机と、壁際に棚がある他はあまり目立つ物もない。ただし、頑丈そうな机にも棚にも無数に引っかき傷やかじられた跡があり、もうボロボロになっているのが一目で分かる。
そして壁と天井や床の継ぎ目には幾つか隙間が空いており、その隙間に布などをきつく詰め込んであるのが見てとれた。どうやらここで必死にあの鼠達を食い止めようとしていたようだ。
まず机を調べようとしたレトは、机の下に乾いた血だまりがあるのを発見した。既に黒く変色して乾き切ってはいるが、比較的新しいものだ。ここ数日といったところだろうか。
さらに机を調べてみるが、さほど変わった物は見当たらない。次は棚を調べてみるかとレトが机を離れようとした瞬間。
カリカリと引っかく音がすぐ近くの床から響いた。かと思うと、小さな頭がにゅっと壁から突き出した。鼠ではなく、人間の頭だ。しかしそれは子供の頭よりさらに一回りほど小さい。そして続いて出て来たのは、頭に比例して大きな、鼠の体だった。つまり目の前に現れたのは巨大な人面鼠である。
「う、うわあぁぁっ!」
「出たあぁあ!?」
4人ともさすがに慌てて身を引きながら武器を手に取り身構える。
「ま、待ってくれっ!」
突如、耳慣れないキイキイ声が部屋に響いた。
「あんたら、冒険者だろっ!?助けてくれっ!」
甲高く切羽詰まったその声はどうやらこの人面鼠から発せられた物らしいと気付き、武器だけは下ろしたものの、皆で警戒したまま目の前の異様な生き物を凝視する。
「何なんだよこいつは……」
「……お化けネズミ?」
「分かった、アンタが呪いの元凶でしょっ!?覚悟しなさいよっ!?」
「違うって、話を聞いてくれっ!」
最初の驚きと混乱が収まると、4人はやっと改めて人面鼠と向き合った。
「こう見えても、俺はネズミじゃない、人間なんだ」
人面鼠はしみじみとした口調で話し始めたが、
「どう見てもネズミだけど」
エルディがいきなり話の腰を折る。もっとも、今回ばかりは異論を挟む者もなく、皆うなずいている。
「そりゃ今はこんな姿になっちまってるけどな、元はちゃんとした人間だったんだよ」
「……ちゃんと、ねぇ」
背の低いアルトが冷たい目で鼠を見下ろし、
「あんたら冒険者なら、俺を元に戻す方法も見つけられるだろ!?
「まぁ、出来なくはないかもしれませんがねぇ」
バルニエがゆっくりと勿体をつけ、
「なぁ頼むよ、人助けだと思って!」
「助けるも何も、お前ルオ商会の泥棒だろ」
レトがいきなりそう切り込むと、さすがに人面鼠も不意を突かれたらしく、目を白黒させた。
「……な、何の話だ?」
「とぼけても無駄ですよ、調べはついてるんですから」
「そういう態度取るって事は、一生その姿でいるって事だな?」
バルニエとレトに静かに締め上げられ、
「わ、分かったよ!そうだよ、商会の金を持ち逃げしたのは俺達だよ!」
あたふたと人面鼠が泣きそうな声をあげるや、
「よし、なら交換条件だ」
すかさずレトがたたみかける。
「オイラ達は元々商会の依頼でその金を取り返しに来たんだ。全額きっちり渡せば、お前が元に戻る方法も探してやる」
「わ、分かったよ……」
「さあ、では何があったのか聞かせてもらいましょうか」
レトとバルニエに詰め寄られ、人面鼠は諦めたように話し始めた。
それによると、彼と仲間3人は兼ねてからの計画通りルオ商会の資金を持ち逃げし隠し場所にと目星をつけていたこの屋敷へ運び込んだのだという。そこまでは良かったが、全員よその街から来た彼らはここが呪いの屋敷だという事を知らなかった。そこでバルニエ達と同じように、呪われた鼠の大群に襲われた。彼は命からがらこの部屋へ逃げ込んだが、他の仲間達は鼠に喰い殺されてしまったそうだ。
「だけど、本当の恐怖はそれからだった……」
丸1日ほどこの部屋に立てこもっていた彼の所へ、また鼠の大群がやって来た。そしてその中には、今の彼と同じように、仲間の顔をした人面鼠達が混じっていたのだという。とうとう自分も鼠に喰い殺されたと思った彼が次に気が付いた時には、この姿になっていたという事らしい。
「えぇっ、さっきあたし達もネズミに噛まれたよっ!?そしたらネズミになっちゃうの!?」
またも早とちりで騒ぎ出すエルディを、
「いやいや、多分大丈夫だから」
「我々は喰い殺された訳ではないですからね」
半ば呆れた調子のレトとバルニエが2人がかりでなだめていると、
「ネズミになっちまってからというもの…ずっと頭の中に誰かの声が響くんだ。屋敷の中の人間を決して外に出すな、みんなネズミにしてしまえってな…今もずっとそう聞こえてるんだよ!」
そう言って人面鼠は短い前足で頭を抱え込み、うずくまってしまった。
「あー、その呪いにネズミの群が操られてるんだねー」
「どうやらそのようですね」
納得いった様子でアルトとバルニエが顔を見合わせる間にも、
「で、そんな事より盗んだ金はどこに隠したんだ?」
レトは容赦なく追求の手を緩めない。
「……地下室だよ。ここに鍵もある」
すっかり観念した様子の人面鼠は、ほんの数秒床穴に消えたかと思うと、鈍く光る鍵をくわえて戻って来た。
「よし、じゃあ確認しに行くからな」
念を押して鍵を受け取ったレトを先頭に、4人はその部屋を後にした。

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