ページ

2012年6月4日月曜日

呪われた屋敷・5

そいつらが逃げないうちに早く踏み込みたいとこではあるけどな」
「でもでも、夜になってからお化け屋敷に入るのは嫌だよぉ……」
「では昼間ならいいんですね?」
「昼間……でも、やだけど……」
なかなか意見がまとまらない。行くべき場所が決まった以上、早く行きたいところではあるが、灯りを点けてこちらが周囲から気付かれてしまうのでは本末転倒だろう。そんな中、
「入って寝るー!」
と、いきなりエルディが言い出した。
「えぇっ!?無理無理、絶対無理っ!」
「そ、それはかなり無謀なのでは……」
「うん、その発想はなかったな」
さすがに全員がざわめいていると、
「違う、帰って寝るって言ったの!」
エルディが顔を真っ赤にして訂正する。
「何だ、それなら分かるよ」
「ビックリさせないでよね……」
「いくらあたしでもそんな無茶しないってば!」
「エルディならやりかねませんからねぇ」
ともかく今夜は一旦戻ってまた明日出直そうという事に話が決まり屋敷の敷地内から抜け出した4人はとっぷりと日の暮れた街中を引き返し始めた。

そして何事もなく無事に宿屋へ帰り着き、何はともあれ夕食にしようと酒場のテーブルについた、までは良かったが、
「あ、でもあたしお金持ってなーい。誰か宿代貸してー!」
またもいきなり騒ぎ出し、
「全然ないのか?」
「うん、全っ然ない!」
レトの問いかけに力いっぱいうなずくエルディ。
「どうせまた魔晶石にかえちまったんだろ」
「全く、相変わらず計画性のカケラもありませんねぇ」
「こないだ僕が貸した分もちゃんと返してよね」
3人の反応にエルディは首をかしげ、
「……借りたっけ?」
「ちょっとー!」
「おいおい、さすがにそれは覚えとけって」
「まあ、エルディですからねぇ」
「うー……あ、お姉さん、エールおかわりっ!」
「飯代も借りてんだから少しは遠慮しろっ!」
4人がそうして賑やかに食事を取っていると、
「あら、あんた達おかえりー。どうだった?」
女主人のシェーラが言いながらテーブルに近付いて来た。
4人はかいつまんで事情を話し、近隣に「呪いの屋敷」と恐れられている旧アーク邸に行く事になったと説明した。それを聞いてシェーラも驚きの表情を浮かべる。
「呪いの屋敷、ね……知ってるわよ、ここらじゃ昔から有名だもの。ちょっとあんた達、大丈夫なの?」
顔をわずかに曇らせたシェーラに、
「んー、大丈夫そうだったよー」
エルディが気にする風もなくフォークをくわえたまま即答するが、
「大丈夫じゃないよぉ、だって誰も帰って来ないんだよ?」
アルトは未だに怯えた様子である。
「あら、でも、帰って来た人もいるわよ、確か」
「え?」
「そうなのか?」
「そうなんですか?」
シェーラの意外な言葉に全員がほぼ一斉に聞き返す。
「ええ、調査に入ったザイアの神官の中に帰って来た人がいるはずよ。昔の話だけど。ザイアの神殿に行って聞いてみたら?」

そんな訳で素直にそのアドバイスに従った4人は翌日ザイアの神殿を訪れていた。
受付で用件を告げてしばらく待っていると、背びれにたくさんの色鮮やかなピアスやスタッドをつけ、頑丈な鎧に身を固めたリルドラケンがやって来た。
「お待たせしちゃったわね。私が北地区復興担当のドーラよ。で、何が知りたいって?」
気さくな口調で聞いてくるドーラに4人が「呪いの屋敷」の話をすると、
「あー、はいはい、昔の話ね。それなら私じゃなくて、私の上官の方が詳しいと思うわ」
ドーラが言うには、その上官本人は直接屋敷に立ち入った訳ではないが、屋敷に調査に行って帰って来た人の知り合いだという。
「悪いけどちょっと待っててちょうだい、今呼んで来るから」
てきぱきとそう言い残したかと思うとドーラの姿は神殿の奥へと消えて行ったが、そう長く待つまでもなく、司祭服に身を包んだ人間の男性を連れて戻って来た。
「じゃあ、私はこれで。頑張ってね」
そう言って尻尾をひるがえし、ドーラは再び神殿の奥へと姿を消した。
「あなた方は、旧アーク邸について知りたいと仰るのですね」
入れ替わりに司祭が口を開く。
「まずはじめに、私自身があの屋敷に入った訳ではないというのは、ドーラから聞いておられるかと思いますが」
そう前置きして司祭はゆっくりと話し始めた。
「神殿の調査隊のうち、私の友人であった一人だけが、何とか帰還したのですが…帰って来て数日はひどいショックを受けていたようで、まともに話の出来る状態ではありませんでした」
今も、隣街ローファの施療院で治療を続けているが、精神の錯乱は相変わらずで、未だ詳しい話は聞けていないのだという。
「ただ、彼はしきりと何かを確認するように自分の顔や手足を触って気にしているようでした……そして、一緒に館に入った仲間達に対してすまない、許してくれと何度も謝っていました……」
その人は、儀式用の結界を張るのを得意としていた、だから一人だけ助かったのではないかと言われていたらしい。
「私にお話し出来るのはこれぐらいですが」
「いえ、辛いご記憶でしょうにありがとうございました」
4人は司祭に礼を述べ、ひとまず神殿を出る事にした。

0 件のコメント:

コメントを投稿