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2012年6月4日月曜日

呪われた屋敷・6

「……どういう事だろうな」
「何がー?」
考え込みながら口を開いたレトに、相変わらず何も考えていなさそうなエルディ。
「いや、一緒に行った仲間にすまないってのは分かるんだけど……自分の顔とか触って気にしてたってのは何だろうなと思ってさ」
「確かに、気になりますねぇ」
レトとバルニエの言葉にエルディも一瞬考え込んだが、
「あそこネズミいたよー。ネズミにかじられてないか気にしてたんじゃない?」
「別にネズミならそんな怖くないと思うけど」
怖がりのアルトの意外な発言に、
「分かんないよぉ、巨大なお化けネズミとかいるかもしれないよぉ」
と、わざと両手を広げて怖がらせて見せる。
「いやいや、そんなバカな」
レトが一笑に付したが、
「案外、間違っているとも言い切れないかもしれませんがね」
バルニエは真顔でそう告げる。
「何かあるのは間違いない訳ですし」

「いや、そりゃそうだけど……お化けネズミってのはないだろ?」
「うん、呪いってアンデッドとかじゃないの?」
レトの後からアルトも嫌そうにそう付け加えた。

「ええ、私もそう思っていましたが……そう決めつけるのは早計かもしれません」「うーん、言われてみればアンデッドだって証拠はどこにもないしなぁ」
「色々な可能性を検討してみるべきでしょうね」
バルニエとレトが話しているのを横で聞いていたエルディがアルトに向かって、
「やっぱりネズミお化けなんじゃないの?」
と言い出した。
「……さっきはお化けネズミって言ってたよ?」
「どっちだっていいよ、ほら、いるでしょ、ヒトオオカミとかの仲間でネズミになっちゃうのも。あれとかなんじゃない?」
「ヒトオオカミじゃなくて人狼……」
言いかけてアルトは「あっ」と声をあげる。
「そうかもしれない、もしかしたらただのネズミじゃなくてワーラットなのかも!」
「ワーラット、だって?」
蛮族の一種、ライカンスロープという種族は、普段は人と同じ姿をしていながら変身能力を有し、動物の姿に変化する事が出来る。個体によって狼、虎、鼠など何に変化するかは決まっているらしいが、子供を産む事はなく、人族を特殊な儀式によって仲間にすると言われている。
「なるほど、それで誰も帰って来ないのか…その線はあり得るかもな」
蛮族となってしまった以上は人族の社会に戻るのはまず無理だろう。あるいは、何かの理由で屋敷の敷地内から出る事が出来ないのかもしれない。
しかし、そうすると殺された魔法使いと蛮族との間に元々何らかの繋がりがあったという事になる。
推測すればするほど謎は深まるばかりだが、今のところ全て憶測にすぎない。今日こそはじっくりと実地調査しようと決意も新たに、4人は再び屋敷の前に立っていた。
「エルディ、どう?」
「んー、やっぱり変わった物はないよー。ネズミはいるけど」
まずは前回と同じく、様子を見てみたエルディがそう告げる。
しかし、もし推測が正しいならそれはただの鼠ではなく剣呑な蛮族なのだ。
4人はランタンに火を灯し、慎重に屋敷内に踏み込んだ。数匹の鼠達は驚いて隅の方に走り寄って行ったが、やはり部屋から出て行く訳ではなさそうで、部屋の隅からじっとこちらの様子をうかがっている。
「……気になるよなぁ」
「気になるけど……」
気にはなるが、下手に刺激するのも考えものだ。
「あっ、そうだ!」
エルディがポンッと手を打つ。
「バニッシュしてみればいいんだよ!蛮族だったら嫌がるもん」
バニッシュというのは神官の扱う神聖魔法の中でも最も簡単な物の一つだ。聖なる光を浴びせ、蛮族や不死者達に、恐慌をきたす、逃げようとするなどの悪影響を及ぼす事が出来る。基礎の基礎とも言うべき魔法なので、当然言い出したエルディ本人も使う事が出来るのだが、
「じゃ、そういう事で、バルー!」
バルニエを呼びながらあっさり前を譲るエルディに、
「はいはい、いつもの事ですね」
苦笑しながら前に出るバルニエ。もはやレトとアルトもいちいち突っ込まなくなっている。
そもそも神官の魔法の力としてはバルニエの方が上なので、同じ魔法を使うなら、バルニエの方が適任だ。今回のように相手に抵抗されるかもしれない場合は特にその傾向が強い。エルディよりバルニエの方が成功率が高いのだ。エルディはそこまで深く考えている訳ではなく、ただ単に面倒事をバルニエに押し付けているだけだと思われるが。
ともかく魔法でバルニエの手に生まれた光は確実に鼠達を照らし出した。
しかし、予想に反して鼠達に変わった影響が出た様子は何一つない。
「あれー?」
「…って事はつまり……」
つまり、これは蛮族ではなくただの鼠。それが魔法によって証明された訳である。
「ヒトネズミじゃなかったのかなぁ?」
「少なくともこのネズミはそうみたいですね」
「じゃあともかく先へ進もうぜ、今すぐ危険がある訳じゃなさそうだし」
そう言ってレトが扉を調べ、何もない事を確認してからゆっくりと引き開けた。
正面に真っ直ぐ続く廊下があり、突き当たりと少し先の左の壁に扉が見える。
そして左手側にも廊下が開けており、突き当たって扉があるのが見えた。
廊下にも数匹の鼠がちょろちょろと走り回っているが、それとは別に厚く積もった埃の上に、真新しい足跡が付いているのが分かった。こちらは明らかに人型の物だ。レトは注意深く足跡の行く先を目で追った。
どうやら足跡は正面の扉の向こう側から来てこの部屋と左の部屋のドアの前まで行き、また元の場所へ引き返して行ったようだ。この部屋にも左の部屋にも入った形跡はない。
「…となると行くべきはそっちなんだが…」
一応、左のドアの向こうも見てから右へ行く事にした。
そこは先ほどの部屋よりやや広い、倉庫のようだった。少し先に木箱が乱雑に積み上げられていて、向こう側はよく見えない。
「うーん、大した物はなさそうだけどな……」
これ以上詳しく調べるなら、部屋に踏み込んで行かなければ無理だろう。

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