帰って行くライを見送り、4人はまた箱を囲んで考えあぐねていた。
「振り出しに戻ったねー」
「そもそも何にも進んでないぞ」
「もう一度、学院で話を聞いてみるのはどうでしょう?」
シグルーンがマリウスに問いかけるような眼差しを向ける。
箱そのものから読み取れる事がない以上、手がかりは今のところずっと箱が保管されていた学院にしかないだろう。4人は箱を携え、学院を訪ねてみる事にした。本来、外部の者は入れないがマリウスが一緒なら問題ないはずだ。
ディルとラッシュがそんな会話をしているが、ここでこうして箱を眺めて悩んでいても埒があかないのは事実である。
「もう一度、学院で話を聞いてみるのはどうでしょう?」
シグルーンがマリウスに問いかけるような眼差しを向ける。
箱そのものから読み取れる事がない以上、手がかりは今のところずっと箱が保管されていた学院にしかないだろう。4人は箱を携え、学院を訪ねてみる事にした。本来、外部の者は入れないがマリウスが一緒なら問題ないはずだ。
まだ昼の混雑とまではいかないが、開いている店が建ち並び、人の行き来も多くなってきた大通りを真っ直ぐに学院目指して進む。やがて向こうの方に学院のシンボルとも言える高い塔の屋根が見えて来た。
「あれが、名高い学院ですのね」
「ええ、あれが我が学び舎です」
マリウスが振り返ってシグルーンに答えた時だった。
突如、細い横道から飛び出して来た小男が勢いよくマリウスにぶつかった、かと思うと何事もなかったかのようにそのまま大通りを走り抜けて行った。
ディルとラッシュは大声でわめきながら、小さな身体を活かして人混みの間を上手くすり抜けて行く。すぐに追われている事に気付いた小男がなりふり構わず駆け出すのが見えた。このまま箱を盗まれてしまっては洒落にならない。皆で必死に追いかける。しばらく走ったところで、ようやく距離が縮まってきた。どうやら小男は人の流れに阻まれて思うように遠ざかる事が出来ないでいるようだ。
「とりゃーっ!」
「つーかまえたっ!」
奇声を発して脚にタックルをかけるラッシュと、跳ね飛んで肩の辺りに飛びつくディルがほぼ同時。マリウスとシグルーンが駆けつけた時には既に、小さな2人が意気揚々と小男を押さえ付けているところだった。
マリウスは足元に転がって来た箱を拾い上げた。当然の事ながら傷一つ付いていないのは分かっていたが、何となく埃を払い、全体を改める。
「とりあえずこいつ、どうしよっか?」
「衛兵に引き渡す以外の選択肢があるのか?」
仲間達がそんな話をしている所に歩み寄ったマリウスは小男を見下ろした。見覚えはない人物だと思う。少なくとも学院の関係者という雰囲気でもない。
「まあ待てって、取り引きしようじゃないか」
マリウスが口を開くよりも早く、小男が声をあげた。
「取り引きだと?貴様、自分の立場が分かっていないようだな」
言いかけるラッシュをマリウスは身振りだけで制した。
「内容によるな」
小男に向かっては重々しく言ってみる。頭から否定しない事で何か情報が引き出せるならそちらの方が有用だと判断したのだ。
「俺を詰所に突き出さないでくれるってんなら、その箱に繋がるちょっとした話を教えてやるぜ」
「あなた、この箱が何なのか知っているのですか?」
「その箱が何なのかは知らねえよ。」
シグルーンの言葉に、小男はわざとらしく肩をすくめて見せる。
「だが、それは魔術師ザードの紋章だろう?高く売れそうだと思ったんだよ」
「…分かった。詰所まで連れて行くのはやめよう」
「おい、本気か?」
「いいのですか?」
驚いた様子の仲間達が口々に声をあげるが、皆それ以上マリウスの決断に異を唱える事はしなかった。小男がにやりと笑みを浮かべる。
「いいだろう。この道の先の、“踊る骸骨亭”って酒場によく来てる、サフィールってエルフがザードの話をしてるのを聞いた事があるぜ。そいつなら何か知ってんじゃねえか?」
「そうか、分かった」
うなずいたマリウスは、こちらに向かって足早に近付いて来る二人組の衛兵の姿を認めていた。白昼、街の一番の大通りでの先ほどの騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたのだろう。何事かと問う衛兵に、
「あれが、名高い学院ですのね」
「ええ、あれが我が学び舎です」
マリウスが振り返ってシグルーンに答えた時だった。
突如、細い横道から飛び出して来た小男が勢いよくマリウスにぶつかった、かと思うと何事もなかったかのようにそのまま大通りを走り抜けて行った。
「大丈夫ですか?」
「ええ、多分…」
驚いたシグルーンの声にマリウスがよろけながら答え終わるよりも早く、
「盗られたよっ!」
ディルが叫ぶなり小男を追って猛然とダッシュし始める。見た目は無邪気な子供のように見えるディルだが、盗賊としての勘でいち早く異変に気付いたのだ。
「ええ、多分…」
驚いたシグルーンの声にマリウスがよろけながら答え終わるよりも早く、
「盗られたよっ!」
ディルが叫ぶなり小男を追って猛然とダッシュし始める。見た目は無邪気な子供のように見えるディルだが、盗賊としての勘でいち早く異変に気付いたのだ。
「何だって」
状況が完全には把握出来ないながらも、反射的に向きを変えてラッシュが続く。言われてみれば先ほどまで確かに小脇にしっかり抱えていたはずの箱がいつの間にか忽然と姿を消していた。それに気付いたマリウスとシグルーンも一拍遅れて慌ててディルとラッシュの後から走り始めた。
「おいこら、待てっ!」
「ドロボーだよーっ!」
状況が完全には把握出来ないながらも、反射的に向きを変えてラッシュが続く。言われてみれば先ほどまで確かに小脇にしっかり抱えていたはずの箱がいつの間にか忽然と姿を消していた。それに気付いたマリウスとシグルーンも一拍遅れて慌ててディルとラッシュの後から走り始めた。
「おいこら、待てっ!」
「ドロボーだよーっ!」
ディルとラッシュは大声でわめきながら、小さな身体を活かして人混みの間を上手くすり抜けて行く。すぐに追われている事に気付いた小男がなりふり構わず駆け出すのが見えた。このまま箱を盗まれてしまっては洒落にならない。皆で必死に追いかける。しばらく走ったところで、ようやく距離が縮まってきた。どうやら小男は人の流れに阻まれて思うように遠ざかる事が出来ないでいるようだ。
「とりゃーっ!」
「つーかまえたっ!」
奇声を発して脚にタックルをかけるラッシュと、跳ね飛んで肩の辺りに飛びつくディルがほぼ同時。マリウスとシグルーンが駆けつけた時には既に、小さな2人が意気揚々と小男を押さえ付けているところだった。
マリウスは足元に転がって来た箱を拾い上げた。当然の事ながら傷一つ付いていないのは分かっていたが、何となく埃を払い、全体を改める。
「とりあえずこいつ、どうしよっか?」
「衛兵に引き渡す以外の選択肢があるのか?」
「まず、どうしてこの箱を持って行こうとしたのか聞いてみるのが先ですわね」
仲間達がそんな話をしている所に歩み寄ったマリウスは小男を見下ろした。見覚えはない人物だと思う。少なくとも学院の関係者という雰囲気でもない。
「まあ待てって、取り引きしようじゃないか」
マリウスが口を開くよりも早く、小男が声をあげた。
「取り引きだと?貴様、自分の立場が分かっていないようだな」
言いかけるラッシュをマリウスは身振りだけで制した。
「内容によるな」
小男に向かっては重々しく言ってみる。頭から否定しない事で何か情報が引き出せるならそちらの方が有用だと判断したのだ。
「俺を詰所に突き出さないでくれるってんなら、その箱に繋がるちょっとした話を教えてやるぜ」
「あなた、この箱が何なのか知っているのですか?」
「その箱が何なのかは知らねえよ。」
シグルーンの言葉に、小男はわざとらしく肩をすくめて見せる。
「だが、それは魔術師ザードの紋章だろう?高く売れそうだと思ったんだよ」
マリウスに迷いが生じた。本来ならこの小悪党をそのまま見逃す事など出来ない相談だ。
しかし、ザードの紋章を知っているところを見ると、多少なりと信憑性のある話なのだろう。学院では手を尽くした感の否めない今、他の方面の情報は是非とも欲しいところではある。
しかし、ザードの紋章を知っているところを見ると、多少なりと信憑性のある話なのだろう。学院では手を尽くした感の否めない今、他の方面の情報は是非とも欲しいところではある。
「…分かった。詰所まで連れて行くのはやめよう」
「おい、本気か?」
「いいのですか?」
驚いた様子の仲間達が口々に声をあげるが、皆それ以上マリウスの決断に異を唱える事はしなかった。小男がにやりと笑みを浮かべる。
「いいだろう。この道の先の、“踊る骸骨亭”って酒場によく来てる、サフィールってエルフがザードの話をしてるのを聞いた事があるぜ。そいつなら何か知ってんじゃねえか?」
「そうか、分かった」
うなずいたマリウスは、こちらに向かって足早に近付いて来る二人組の衛兵の姿を認めていた。白昼、街の一番の大通りでの先ほどの騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたのだろう。何事かと問う衛兵に、
「何、大した事はありませんよ」
マリウスは穏やかに微笑んでみせた。
「ただのかっぱらいです。幸い、盗まれた物は既に取り返して我々には被害はありませんので、後の事はお任せします」
マリウスの言葉に、小男の顔からみるみる血の気が引いてゆく。
「おいてめえ、さっきの約束はどうなったんだ!?」
「約束?」
マリウスは平然と答えた。
「僕は、詰所に連れて行くのはやめると言ったんだ。衛兵に引き渡さないとは言っていない」
それだけ言うとマリウスはそのまま背を向け、歩き始めた。小男の罵る声にそれを追い立てる衛兵の声がすぐに遠ざかってゆく。
「どうなる事かと思いましたわ」
「お主もワルよのぉー」
追いすがってきたディルのおちゃらけた言葉に、マリウスは軽く微笑んだ。
「悪党に義理も情けも必要ないさ。それより、さっき聞いた酒場とやらに行ってみよう」
「ただのかっぱらいです。幸い、盗まれた物は既に取り返して我々には被害はありませんので、後の事はお任せします」
マリウスの言葉に、小男の顔からみるみる血の気が引いてゆく。
「おいてめえ、さっきの約束はどうなったんだ!?」
「約束?」
マリウスは平然と答えた。
「僕は、詰所に連れて行くのはやめると言ったんだ。衛兵に引き渡さないとは言っていない」
それだけ言うとマリウスはそのまま背を向け、歩き始めた。小男の罵る声にそれを追い立てる衛兵の声がすぐに遠ざかってゆく。
「どうなる事かと思いましたわ」
「お主もワルよのぉー」
追いすがってきたディルのおちゃらけた言葉に、マリウスは軽く微笑んだ。
「悪党に義理も情けも必要ないさ。それより、さっき聞いた酒場とやらに行ってみよう」
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