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2013年2月24日日曜日

開かない箱・7

しかし、それに続くウェンディーネの言葉も、骸骨達の反応も予想外のものだった。

「ねーねー、遊びに来てあげたよー!」

「おぉそうかそうか、ちょうど退屈しとったところじゃわい!」

赤い鎧を着込んだ骨太の骸骨が、飛び付いて来たウェンディーネを抱え上げ、ひょいっと頭上まで持ち上げる。

「あら、カサンドラ。珍しいわね」

「御無沙汰致しております」

茶を飲まずにいた、白銀の鎧を纏った細身の骸骨が小首をかしげ、カサンドラの方は丁寧にそう答えてきっちりと頭を下げた。

「新顔か」

もう一人、黒い鎧を着けた骸骨は一同をぐるりと見渡し、何の感慨もなさそうに呟くと、再び何事もなかったかのようにその場に腰を下ろし、がぶりと茶を飲む。
「はーい、皆さんの分のお茶も入りましたよー」
いつの間に用意したものか、勝手知ったる他人の家とばかりに、未だ状況が把握出来ず言葉もない4人の元へ、サフィールが人数分のカップとティーポットを運んで来た。こうして、よく分からないままに戸惑いながら何故か皆でテーブルを囲む事になった。

「ま、とりあえず敵じゃなさそうだし。滅多に出来ない経験だよね!」

そう言ってさっさと席に着き、すぐに馴染んでいるのはディルだけで、マリウスやラッシュもさすがに動揺を隠せない。特にシグルーンは神官という立場上、何となく居心地が悪そうにしている。

「はじめにお話ししておけば驚かせる事はなかったんですけれど。実際に見て頂いた方が早いと思って」

4人をここへ案内してきたサフィールが説明を始める。それによるとこの骸骨達こそが伝説の「剣の戦士団」の3人の旗頭だというのだ。街を守るために死してなおその思いが強かったため、こうして不死者として存在している。そして街の英雄であった彼らをザイアの神殿が保護しているという。確かににわかには信じ難い話だが、こうして目の当たりにすると信じざるを得ない。同時に、神殿の最高機密であるという話もうなずけるのであった。

ようやく驚きもおさまった4人はまたしてもザードの箱を開ける方法を探している事を説明し、箱を取り出して骸骨達にも見せてみた。

「うむ、なるほど」

「確かにあいつの物だな」

しかし、戦士団の物というよりザード本人の個人的な所持品であるため、旗頭達にも開ける方法は分からないらしい。ここまで来たのも無駄足だったという事かと4人は途方に暮れてしまった。

「そうだわ、エミリアなら何か知ってるんじゃないかしら?」

白銀の鎧のどうやら女性らしい骸骨が急に思い出したかのように言う。

「おお、確かに」

「彼女なら、魔法の心得もあったな」

後の二人もそうだそうだとうなずいている。

「エミリア?」

「どちら様ですの?」

聞き覚えのない名前に首をひねる4人に、旗頭達は代わる代わる説明してくれた。エミリアというのは、ザードの恋人であった女性。彼女自身かなりの魔法の使い手であったが、ザードの強い意向もあり、戦いが本格化する前に街を離れる事となった。その際、隣街へ行く事は拒否し、独りで近くの森の中に移り住んだらしい。

「そう言えば、森には魔女が住んでいるという噂がありますね」

サフィールのいう噂というのは、言われてみれば耳にした事があった。ロンダルとローファの間の小さな森に住む魔女。森に住み始めた10年以上前には、英雄「剣の戦士団」ゆかりの魔術師という事で助言を求めて訪れる者も多く、その豊富な知識と魔術を用いて人々を助けていたが、ここしばらくは来る者も拒み、人を遠ざけるようになってしまったので魔女と呼び恐れる者も少なくないと。
「あ、思い出した!」

そこまで聞いたところで突然ディルがポンッと手を打った。

「そーいえば、森の魔女の様子が最近更に何かおかしいって言ってたの聞いた!」

その言葉にすぐにラッシュがディルの方に向き直ってたずねる。

「そんな事、誰に聞いたんだ?」

「え?誰って、クサとかムシとか。森のそばの」

「何だそりゃ?」

ラッシュが怪訝そうな顔をしているのも無理はないが、ディルの言っている事も間違いではない。グラスランナーという種族は、草や虫といった小さな生き物と意思疎通を図る事が出来る。勿論、それらの生き物は人族のようにしっかりと確立した思考を持つ訳ではないので、意思疎通といっても思念波のような単純なイメージに限られるが、それをきちんと読み取れれば重要な情報源となる。

「それは、確かな事なんだね?」

「うん、森には近付かない方がいいって感じがしたから確かなんじゃない?」

マリウスの問いに他人事のように答えるディル。

「ええ、私のいる魔術師ギルドにもそういった話は伝わってきていますね。詳しい状況は分かりませんけれど、魔女の館から命からがら逃げ出してきた人もいるとか……」

サフィールがディルの言葉を補足する。そんな風に言われると否が応でも不安が募るが、実際に確認してみなければ本当のところは分からない。4人はその場の皆に礼を述べ、森へ行ってみる事にした。しかし今から出発しても夜になってしまうだろうから、その前に一旦街へ帰る事に決め、案内してくれた3人と別れてロンダルへと戻ってきた。


「じゃあ明日出発だねー」

「ええ、今夜は早く休みましょう」

そんな事を話しつつ当然のように宿に向かっていた矢先。

「すまないが皆で先に戻っていてもらえるかな」

しばらく黙って考え込んでいたマリウスが、急に何事か決意したかのように立ち止まる。

「別にいいけど?」

「どうした?」

不思議そうにたずね返す他の皆に、

「僕は一度学院に戻って、キャナルに途中経過を報告しようと思う」

視線を合わせずそう告げるマリウス。

「何だ、それなら俺達も一緒に」

言いかけたラッシュの腕をディルが笑いながら軽く引っ張った。

「ダメだよ、邪魔したらー。まあねぇ、あんなワガママそうな人だと苦労しそうだから止めてあげた方がいいのかもしれないけどさぁ」

その言葉の意味が飲み込めないようでラッシュはきょとんとディルを見返している。

「あら、そういう事なんですの?」

その代わり、普段そういう事にあまり関心のなさそうなシグルーンが嬉しそうにマリウスを見やる。

「いや、別に、そういう訳ではないんだけれども……」

しどろもどろに否定しつつも段々声の小さくなるマリウスに、

「だいじょぶだいじょぶ、分かってるからさぁ、頑張ってねー」

「陰ながら応援してますわ」

「何だ、告白か?それならそうと言え」

皆好き勝手な事を言いながらさっさと宿の方へ去って行った。残されたマリウスは急に噴き出してきた汗を慌てて拭っていたが、やがて大きく息をつくと踵を返し、学院の高い塔目指して歩き始めた。

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