軽い調子のドーラの問いに、サフィールが4人の方を振り返る。
「実は、この方々を塔へお連れしたいんですね。」
「魔術師ザードに関わる調査をしている冒険者の方々なのですが……」
「あー、確かにどう見ても冒険者だねぇ」
うなずいたドーラは改めて4人をぐるりと眺め回した。
「ま、あんた達が連れて来るなら大丈夫でしょ、だったら……」
そしてそうあっさりと言いかけたが、その言葉が終わるよりも早く、
「ま、あんた達が連れて来るなら大丈夫でしょ、だったら……」
そしてそうあっさりと言いかけたが、その言葉が終わるよりも早く、
「ちょっと待って、部外者を連れて行くってどういう事!?」
またも厳しい声が割って入った。声の主は、栗毛の馬の手綱を衛兵に預けるのもそこそこに、こちらへ向かって小走りにやって来る。ドーラに負けないほどしっかりと鎧を着込み、燃えるような赤い髪を短く切った大柄な人間の女性だった。
「あー、カサンドラ、久しぶりー!」
ウェンディーネが全くその場の雰囲気を気にせず嬉しそうに手を振って見せる。
「そうね、相変わらずね、ウェンディーネ」
カサンドラと呼ばれた赤毛の女性は苦笑しつつウェンディーネをちらりと見やったが、すぐに真面目な顔に戻り言葉を続ける。
「そうそう人を入れられないのは分かってるでしょ?サフィールもサフィールよ、だいたい……」
「あー、まあ、言いたい事は分かるんだけどね」
食ってかかるカサンドラに、ドーラが頭をかきながらちょっと天を見やった。
「だいたい冒険者が見つけて来たって事は、放っておいてもどうにかして調べ上げて来ちまうよ。その辺、あんただってそうだったろ?」
その言いように、カサンドラがぐっと言葉に詰まったのを見越すかのようにドーラが言葉を重ねる。
「だから、それならこちらで連れて行く代わりに他言無用って事にした方がいいと思うんだよ。ま、ここじゃなんだからちょっと中で話そうか」
返事も待たずすたすたと建物の方へ向かうドーラに皆黙って従う。すぐに小さな応接間のような部屋に通された4人にドーラが話してくれたところによると、これから向かおうとしている「塔」は剣の戦士団に深い所縁のある場所であると同時にこの街のザイア神殿の最高機密であるというのだった。もしその秘密が公になってしまったら、復興途中のこの街はおろか、近隣の街や村などにも混乱を引き起こしかねないというのだ。そこで見た事を絶対に口外しないと約束するなら、今回に限り特別に立ち入りを許可しようという。
今のところ唯一の有力そうな手がかりには違いない。4人は迷う事なく秘密を守る事を誓約し、塔に案内してもらう事に決めた。
そして街を出て数時間。鬱蒼とした森の中の山道をしばらく登って行く。道案内兼目付役としては、サフィールとウェンディーネ、それにカサンドラが一緒に歩いていた。塔にはしばらく行っていないので、せっかくの機会だから同行するという。
「みんなで街の外に出るなんて、久しぶりだねー!」
そう言ってはしゃいでいるウェンディーネなど、ほとんど散歩か遠足と勘違いしているようだ。だが、注意深く周りの様子に気を配っていると、一見何もなさそうなこの山道には幾重にも強力な結界が張られているのが感じられた。この山自体が部外者の立入禁止区域となっているというのはあながち嘘ではなさそうだ。やがて、小さな山の頂上に建つ石造りの塔の元までやって来た。
カサンドラが大事そうに金属の鍵を取り出し、両開きの大きな扉を開く。
「ちょっと驚かれるかもしれませんけれど。危険な事はありませんから」
サフィールが謎めいた微笑みを浮かべて告げる間にも、ウェンディーネが飛び跳ねるような足取りで塔の中に消えて行く。皆でその後に続き、がらんとしたエントランスを抜けて階段を上って行くが、特に何もない階ばかりが続いている。
しかし何階目か分からない階段を上り切ったところで、4人は思わず立ちすくんだ。
そこにあったのは和やかなお茶会の風景だった。だが、茶を飲みながら談笑している3人は、どう見ても普通ではない。先ほど目にした酒場の看板の模型を等身大にしたような、全身が骨だけとなった骸骨達だったのだ。
3人のうち、やや骨も細く、骨格もほっそりした一人だけは手にした茶碗を口元まで持っていくものの、茶を口に含む事はなく、静かに会話を楽しんでいるようだが、後の2人は全くそんな事には頓着せず普通に茶を飲むため、飲んだ端から骨をすり抜けてその場にだばだばとこぼれているのであった。
一見のどかに見えるこの光景だが、魔物に関する知識の豊富なマリウスとシグルーンにはすぐに分かった。例え骸骨が3体ではなく1体だけだったとしても、自分達が束になってかかっても全く歯の立たない相手であろう。もし戦う事にでもなったらまず間違いなく全滅を覚悟しなければならない。背筋を冷たいものが這い上ってゆく。
幸い、こちらにはまだ気付かれていないようだし、ここはそっとやり過ごして通り抜ける事が出来れば、いや、それしかない。そう思った正にその瞬間。
「赤いせんせー!」
先頭に立っていたウェンディーネが大声で叫びながらぴょんぴょんと骸骨達の方へ近寄って行った。全くもって空気を読まないウサギだが、そんな事に腹を立てている暇などない。骸骨達がその声に一斉に振り向き、ガシャガシャと音を立てながら立ち上がる。最悪の事態だ。
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