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2013年2月24日日曜日

開かない箱・5

大通りを進んで行くと、踊る骸骨亭というのはすぐに見つかった。看板と共に小さな骸骨の模型が吊るされており、風に吹かれてカラカラと音を立てているのが意外と楽しそうに見える。
遅い昼食を取っている客でそこそこ混雑しているやや薄暗い店内に入った4人は、迷わず酒場の主人のいるカウンターに向かって行った。

「すみません、人を探しております」
「サフィールさんという方が、こちらによくいらしていると伺って来たのですが……」

「ああ、彼女なら、ほらそこにいるよ」

シグルーンに答え、主人が指したテーブルでは、白い髪を真っ直ぐに伸ばし、薄い青のローブを纏った華奢なエルフの女性が、全体に白い毛並だがところどころ黒に近い茶の混じった小柄なタビットと向かい合ってお茶を飲んでいた。


「あの、サフィールさん、ですか?」
「はい?」
テーブルに近付いたマリウスが声をかけると、
「そうですけれども、何か?」
おっとりとした口調に薄い青の瞳でマリウスを見返すエルフ、サフィール。

「あ、申し遅れました、私は学院の研究生でマリウスと申します。実は、ザード先生の事で折り入ってお聞きしたい事がありまして……」

それを聞いたサフィールは一瞬かすかな驚きを浮かべたが、すぐに平静に戻った。
「立ち話もなんですから、どうぞ」
そこで4人に椅子を勧めてくれるサフィールに、形見の箱を開ける方法を探している事を簡単に説明する。

「お話は分かりましたけれど……」
そう言ってサフィールはしばらく考えているようだった。
「わたし自身は、それほどザードさんと親しかったという訳ではないのです。ですから、申し訳ないのですが……」
「そうですか……」

言い淀むサフィールの様子に無意識のうちに溜息をつく。新たな手がかりだと思っていたのに、これでまた道は閉ざされてしまった。あまりにもはっきりと落胆が顔に表れていただろうか、言葉を探していた様子のサフィールが意を決したように口を開く。

「わたしもその箱の中身が何なのか、興味があります。知り合いにザードさんと親しかった方々がおりますので、ご紹介しましょう。ただ……ちょっと面倒なんですよね……」
最後の方は、マリウス達に向かって発した言葉というよりはほとんど独り言のようなものだった。その一言を聞きとがめたのか、
「あー、ホネの先生んとこ行くんでしょ、ねーねー!ボクも一緒に行くー!」
サフィールの向かいにいたタビットが突如騒ぎだしたかと思うと、さっさと自分のお茶を飲み干して待っている。

サフィールがわずかに眉根を寄せて困ったような微笑みを浮かべてみせた。
「まず先に行かなければならない場所がありますのでちょっと寄り道しますが、一緒に来てください」
そう言ってカップを置いて立ち上がる。
「来てくださるなら、旅のお役に立ちそうなちょっとした道具も貸して差し上げますよ。ねぇウェンディーネ、あなた確か試作品の実験台……いえ、モニターさん探してましたよね?」
「うん、今度の新作は自信作だよー!ただ時々、変な壊れ方するだけで!」

サフィールの問いかけに、ウェンディーネと呼ばれたタビットも嬉しそうに答えているが、どうもそれは嫌な予感しかしない。4人は試作品の試しだけは丁重に断る事にして、サフィール達について行く事にした。
着いたのは、街の警備隊の本部だった。元々この街では、街の復興の中心となっている騎士神ザイアの神殿が一番の権力を持っているため、街の中央にある大きなザイア神殿に隣り合って警備隊の本部がある。在籍している隊員達の中にもザイア神殿と関わりのある者も多いらしいと聞く。

「こんにちは。ドーラさん、いらっしゃいます?」
門をくぐるとすぐ先にある守衛室兼受付のような小屋の衛兵に、サフィールが物怖じもせず声をかけた。
衛兵は一瞬怪訝そうな顔をしたが、部隊長は外出中でここにはいないときっぱり答える。

「ねーねー、じゃあカサンドラは?」
サフィールに代わってウェンディーネが気軽に声をかけ、「ねーねー、ねーねー」と衛兵の答えを催促して騒ぎ始める。
「カサンドラ様もお留守だ。何なんだお前らは?」

横柄に答えたもう一人の衛兵は露骨にこちらをじろじろと見やる。確かに自分達はどう見ても冒険者の一団にしか見えないだろうから、多少は胡散臭がられても仕方がないかもしれないが、それにしてももう少し別の対応の仕方がありそうなものだ。

「分かったらさっさとお引き取り願おう」
重ねられた言葉にサフィール達が何か言い返すよりも早く、
「何をしてるんだお前達は!」

突然、背後から鋭い声が飛んできた。その声は厳しいながらも女性の声であったが、驚いて振り向いた一同の目に映ったのは、頑丈な鎧を着込み、背びれ一つ一つに色鮮やかなピアスやスタッドを飾ったリルドラケンの姿であった。部下らしき衛兵を数人連れたリルドラケンは尚も険しい表情を崩さない。

「市民に対してむやみに高圧的な態度を取るんじゃないといつも言っているだろう!」
そこで、どうやら叱責されているのは自分達ではなく衛兵達の方らしいと気付き、4人はやっと胸を撫で下ろした。
「まあまあドーラさん、そんなに怒らなくても」
「でも街の人に、やな態度取ったら困るもんね、怒っていいよー」
サフィールがやんわりととりなしたのにも関わらず、ウェンディーネが他人事のようにけしかけるので台無しだ。

「誰かと思えばサフィールじゃない、珍しいね。あんたも偉くなっちゃって忙しいだろうに」
「別に、偉くなってはないですけどね。ドーラさんのように忙しくもないですし」

うってかわって気さくな口調になったドーラににこやかに答えるサフィールを見た瞬間、マリウスは一人ではたと膝を打った。どうもどこかで聞いた名前のような気がして、しかし思い出せずに気になっていたのだが、ようやく思い出したのだ。サフィールというのは、この度街の復興に伴って新しく創設された魔術師ギルドの有力者の一人ではないか。

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